“自然は波しぶきなどの数え切れないほどの泡の一つ一つを「π」を使って計算し作り出しているのだろうか?”

“NO” とバックミンスター・フラーは答える。なぜならば、自然にそんなゆとりはないはずだ。π=3.1415......と永遠に繋がる無理数をいちいち使って間に合うはずがない。自然はどんな幾何学、数学を使っているのだろう?

現代のレオナルド・ダ・ビンチと言われたゼネラリスト、フラー(1895~1983年)はジオデジィック・ドームの発明家として有名だ。ジオデジィックという言葉は、そもそもアインシュタインが時空は歪み、その中を走る光は曲がらざるを得ない、すなわちジオデジィック(測地線的)な道をたどる、というところから生まれている。

この考えは飛行機パイロットなどにとっては常識だ。われわれがふだん使うメルカトル地図では、球体を無理に平べったい二次元に置き換えたためフライトルートは直線ではなく、曲がったジオデティックラインが最短距離なのだ。このようにカーブした線の両はじを直線で結んだものを、フラーはジオデジィックと呼んだ。

このラインを使って、構造上もっともシンプルで経済的、なおかつ強い自己安定型の三角形を基準に構成されるドームがフラードームである。比較的高温度で超伝導の可能性を秘める分子として最近発見され、科学界の注目を浴びている「C-60」は、フラードーム構造になっていることから、フラーレーンとも呼ばれている。

フラー構造はそのほかにも自然の中のいろいろなところで発見できる。たとえばダイヤモンド、昆虫の眼、カメの甲、植物の葉や種、ハチの巣,ヴィールス……。

DNAでさえフラーはこの種のテトラをペースにした二重らせん構造(彼はテトラヘリックスと呼ぶ)で説明している。それが立証されるまで時間はかかるだろうが、フラーの考えが正しいというヒントは、彼のライフワーク “シナージェティックス” に秘められていると思う。もし正しければ生命の幾何学とでもいえるものが、自然の背後に潜んでいることを示す革命的な発見になるのではないだろうか。

(エドワード・すずき/建築家)