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ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろう細胞・発生・進化研究室ー 小田 広樹

私たちが開拓したモデル生物オオヒメグモを中心に細胞や形作りの仕組みを調べ、
昆虫や脊椎動物と比べることによって、動物多様化の根底に存在する基本原理を探ります。

多細胞動物は、形態的特徴や発生様式に基づいて、門 (Phylum) という大きなグループに分けられています。例えば、私たち脊椎動物を含む脊索動物門、昆虫を含む節足動物門、タコやイカを含む軟体動物門などです。ところが、これらの動物門の間にある違いは大きく、その違いがどのような経緯で生じたのかを理解することは非常に難しい問題となっています。私たちは、この問題を解く鍵がそれぞれの動物門の中に存在する多様性にあると考え、研究に取り組んでいます。これまでに私たちは、新たなモデル生物オオヒメグモを開拓し、この動物種を中心にゲノムを基盤とした研究を行ってきました。その成果として、節足動物門の中に、1)細胞と細胞をつなぐ分子の構造と、2)体の軸と反復構造を形作る仕組みに、多様性があることを発見しました。動物門の中の多様性は、その動物門が誕生する以前の祖先の状態を知る重要な手がかりになります。クモを通して節足動物と脊椎動物のつながりも見えつつあります。ヒトと節足動物の共通祖先を理解し、多様化への変化を説明できること、かつ、さらに深い祖先とのつながりをも説明できることが私たちの目指す研究目標です。究極的には、多様性を生み出す「進化の向き」を物理法則で説明したいと考えています。

年度別活動報告

これまでの学位取得者とテーマ

  • 令和2年度 修士論文 南條稜汰 「節足動物の発生におけるクロマチン動態の比較:オオヒメグモ初期胚の ATAC シーケンシングによる解析」
  • 令和2年度 修士論文 宮下 怜 「解毒関連遺伝子に着目した狭食性鱗翅目昆虫における食草転換機構の分子生物学的解析」
  • 平成30年度 博士論文 西口茂孝 「液中原子間力顕微鏡を用いた無脊椎動物のクラシカルカドヘリンの構造進化の解析」
  • 平成25年度 修士論文 逸見なつき 「クモ胚における縞パターン形成の定量的な解析」
  • 平成23年度 修士論文 西口茂孝 「昆虫型カドヘリンにおける接着特異性決定メカニズムの解析」
  • 平成22年度 博士論文 金山真紀 「顕微注入法を用いたクモ胚の頭部体節形成機構の解析」
  • 平成21年度 博士論文 春田知洋 「DE-cadherin細胞外領域の構造と機能が果たす形態形成過程における役割」
  • 平成19年度 修士論文 金山真紀 「オオヒメグモの胚盤周縁部領域に着目した節足動物門における前方部形成機構の解析」
  • 平成18年度 修士論文 春田知洋 「DE-cadherin細胞外領域のドメイン構成の機能的意義の解析」

過去の在籍者はこちら

このラボから生まれた季刊「生命誌」

季刊「生命誌」100号
リサーチ:生命誌研究のこれまでと今

研究者は日々、何を見て、何に驚き、何を想うのか。論文には書かれない、今まさに動いている研究の日常を語りました。

季刊「生命誌」83号
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季刊「生命誌」65号
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季刊「生命誌」57号
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季刊「生命誌」42号
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季刊「生命誌」39号
「飼育・採集日記」

私たちは、節足動物内での進化を調べる一つの材料にムカデを選びました。自然の生物を扱う研究は材料の入手から大変…。高槻周辺でのムカデの採集日記です。

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