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BRH公開セミナー  生命誌のこれから-進化を知るためのさまざまなアプローチ セミナー「ジャンクDNAから見えてきたほ乳類の進化」 討論会「さまざまなアプローチで進化を考える」

詳細

日時

2012/12/15(土) 13:00~16:30

場所

JT生命誌研究館 1階展示ホール

出演者

岡田典弘(東京工業大学生命理工学研究科)、對比地孝亘(東京大学)、鈴木麗璽(名古屋大学)

内容

生命誌のこれから-進化を知るためのさまざまなアプローチ
セミナー「ジャンクDNAから見えてきたほ乳類の進化」
討論会「さまざまなアプローチで進化を考える」
日時
2012年12月15日(土)13:00~16:30
場所
JT生命誌研究館 1階展示ホール
内容
生きもの研究の魅力や生命誌の展開を探る試みとして昨年より開始したBRH公開セミナー。第2回は「生命誌のこれから — 進化を知るためのさまざまなアプローチ」と題して2012年12月15日に開催しました。第一部では、ジャンクDNAと考えられてきた配列からさまざまな進化現象を解き明かしてきた東京工業大学の岡田典弘先生の講演、第二部は人工生命研究者の鈴木麗璽先生、古脊椎動物、比較形態学者の對比地孝亘先生を迎えて、さまざまな進化研究のアプローチを館員とともに語り合いました。
まず今回はゲスト講演の内容を報告します。


進化の広場、對比地先生の恐竜化石のレプリカ展示とお話。


鈴木先生の人工生命のコンピュータデモに興味津々。

第一部:セミナー「ジャンクDNAから見えてきたほ乳類の進化」

講師:岡田典弘(東京工業大学生命理工学研究科)


役にたたないDNAがほ乳類の進化の発見につながったお話。

ゲノムDNAの中で蛋白質の配列情報を持つ遺伝子に対して、機能が不明の部分はジャンクDNAと呼ばれてきた。ジャンクの中でもレトロポゾンという類似の配列が繰り返し現れる反復配列は、ヒトゲノムの約40パーセントを占める。SINEという約300塩基のレトロポゾンは、RNAに転写された後DNAに変換して再びゲノム中に挿入され、「コピーアンドペースト」方式でゲノム中に自身の配列のコピーを増やすことが知られている。そして一度挿入された配列はそこに留まるので、SINE配列のあるなしを比較して進化をたどることができる。そこでこのSINEに注目して、ほ乳類の進化のさまざまな解析を行った。

(1) クジラはどこからきたか

クジラは四足を持つ陸上のほ乳類が海に入り、魚様の形に進化したと考えられていた。ゲノムDNA中のSINEの有無を現在のクジラと他のほ乳類で比べたところ、クジラは偶蹄類(ウシ、ブタなどの仲間)のグループに入ることがわかった。偶蹄類とクジラの比較を行ったところ、なかでも最も近いのはカバであった。従来クジラの祖先の候補としてメソニクスという絶滅した肉食獣が挙がっていたが、メソニクスは偶蹄類の特徴を持っておらず、直接の祖先ではないことになった。遺伝子配列の比較では、1塩基1塩基を比較し統計的な処理が必要だが、SINE法ではゲノムDNA配列に挿入されたSINE配列のあるなしで近い系統を判定するので、より簡単に確実に系統関係を知ることができる。

(2) ほ乳類の起源

現存の有胎盤ほ乳類は、おおきく北方獣類、アフリカ獣類、異節類(南米獣類)に分類され、これは大陸の分裂によって地理的に隔離されたことで種分化がおきたことが原因と考えられた。これらほ乳類のSINEの配列を詳細に比較したところ、共通のSINEの配列がある場合とない場合がいずれのグループにも見つかり、これは3系統に分かれた生きものでSINEのあるなしが多型である状態で、ほぼ同時に分かれためと考えられた。すなわちSINEが挿入されてから短い期間で同時に3つの大陸が分かれたことを示しており、地球科学者と共同研究から3つの大陸の分裂時期を約1億2千万年前と予測した。SINEの配列からほ乳類の分岐と大陸移動についての知見を得た例である。

(3)ほ乳類の誕生

ほ乳類の共通祖先のゲノムに挿入されたSINEの配列に塩基置換が起こるうちに遺伝子の発現を調節する機能をもつようになった例を発見した。3例についてマウスを用いて胚発生での発現をしらべたところ、ほ乳類の特徴である二次口蓋、髭の感覚神経経路、大脳皮質などの形成に関わると考えられる遺伝子のエンハンサー機能が確認された。SINEが機能を持ったことで、ほ乳類特有の機能の形成に関与した可能性を示した成果である。

第二部:討論会「さまざまなアプローチで進化を考える」


恐竜、鳥、魚と生きものも方法もさまざまな進化を語りあう。

[話題提供1]
對比地孝亘(東京大学)

恐竜における形態進化-ティラノサウルス類の例

化石記録を元にした形態進化パターンの解析例として、ティラノサウルス類獣脚類に属する、モンゴル産Tarbosaurus bataarの幼体標本を用いた研究を紹介した。Tarbosaurusは、ティラノサウルス類Tyrannosauroideaの中では12mと巨大で派生的な進化した形質を持っているが、この幼体の形質を使って系統解析をした結果、この幼体は本来属するべき派生的なクレードからはずれ、原始的な性質を示した。派生的なティラノサウルス類の形質は、個体の成長段階に顕著になり、発生の異時性のなかでも過形成により起きた可能性が示唆された。恐竜幼体の化石が見つかることはまれであり、個体成長や大進化パターンを知る上での貴重な材料となる。

[話題提供2]
鈴木麗璽(名古屋大学)

野鳥の歌の進化に対する人工生命アプローチ

夜明けや夕暮れの森では多くの鳥が様々な歌を歌っており、それは縄張りの主張であったり、繁殖ためであったりする。従って、効率的な情報伝達のために同時に歌うのを避けると考えられる。この歌の時間的重複回避行動を生物の持つ可塑性の一つとしてとらえ,その共進化を人工生命の手法で解析した。その結果長く歌う鳥よりも短く歌う鳥に重複回避行動をとる傾向があることが示された。実際の自然状態では、鳴く目的は多様であり、歌の長さを可変にすることで適応する戦略もありうるが、歌の長さを固定することで共有資源の時分割問題として解くことができることを示した。