詳細
日時
2025/06/14(土) 14:00 - 15:30
場所
JT生命誌研究館(大阪府高槻市)・および本ページ
出演者
安達那央子さん(アドベンチャーワールド)
主催
JT生命誌研究館
参加方法
参加無料・定員50名(先着順)
内容


JT生命誌研究館は、アドベンチャーワールドと「Smileパートナーシップ連携協定」を締結しました。
「Smileパートナーシップ連携協定」についてくわしくはコチラ
アドベンチャーワールドについて
アドベンチャーワールドは、豊かで多様ないのちが息づく紀伊半島・和歌山県白浜町に広がる、いのちの美しさに出会える場所。ここでは、ジャイアントパンダをはじめ、世界中の陸・海・空の動物たち約120種・1,600頭が、私たちのパートナーとして共に暮らしています。「いのちを見つめ、問い続ける。いのちの美しさに気づく場所。」—この想いのもと、私たちは、エデュテインメントの力で心が動く体験を創造し、訪れるすべての人が、愛・つながり・可能性という“いのちの美しさ” に出会う “とき” を大切にしています。驚きや感動の先に生まれる気づきが、やがて、「だれもがキラボシな世界」をつくる一歩となるように。アドベンチャーワールドは、これからも挑戦を続けます。
アドベンチャーワールド 公式WEBサイト
スタッフ後記
“ペンギン誕生”と聞いて思い浮かぶイメージは、ある日卵がパカっと割れて中からヒナがぴぃと頭を出す瞬間、なのではないでしょうか?しかし実際は、もっとずっと長く、山あり谷あり、時には運を天に委ねる道のりなのです。
アドベンチャーワールドでは、基本的には自然繁殖、つまりペンギンたちに任せていますが、数万匹が群れる野生のコロニーとは違い、数の少ない飼育下ではパートナーを見つけるのは一苦労です。しかも、繁殖のチャンスは年に1回。その1回に、たった1個注1の卵を産むのです。限られた条件の下で、複数の個体の子孫が偏りなく残るように、アドベンチャーワールドでは約5年前から人工繁殖も行っています。自然繁殖であれ人工繁殖であれ、交配が済み無事に卵が産まれても、赤ちゃんの素となる有精卵は20-30個中10個ほど注2。受精しているかどうかは、下から光を当てる「検卵」によって確認します[写真1]。運良く有精卵だったとしても、親鳥が抱卵できなかったり、ひびが入ってしまったり、逆子だったり、少しも気が抜けません。無事に抱卵期間が終わると、いよいよ「嘴打ち(はしうち)」が始まります。孵化前にヒナが卵の内側から殻をつつく行動で、命がけの大イベント。エンペラーペンギンのような大きな種だと、殻も厚く(約1mm)注3、最長で5日もかかります。パカっと割れた卵の中からヒナが出てくるあのイメージは、実は数日間の工程なのです。
このように過酷な“ペンギン誕生”への道のりでは、ペンギン任せのままでは失われてしまう命もあります。そこで人間が手を差し伸べるのが「孵化介助(ふかかいじょ)」です。親に放棄された卵は、孵卵器(ふらんき)で温めます。大切なのは温度と湿度で[質問10]、嘴打ちが始まると湿度を58%から70%に調節します。ヒナが自力で殻から出られない卵には、外側から呼吸のための小さな穴をあけ、自然に割り進められるよう環境を整えます。殻の内側にある膜の位置から嘴打ちのタイミングを予測し、あらかじめ嘴の位置に印をつけておくのです[写真2]。そして、孵化介助で生まれてきたヒナは、なるべく親元に戻します。そのために親側に行うのが、偽物の卵を抱かせること[写真3]。卵を抱かない親鳥は子育てをしないのだそうです。偽卵とヒナを入れ換えるのは、両方が同じ重さになった時。大きく育ちすぎると、親鳥はヒナを受け入れません[質問17]。また、人間への「刷り込み」が強くなり、ヒナ側も親鳥を親と認識しなくなってしまいます。刷り込みは、孵化直後に見たものを親と思い込む習性ですが、不思議なのは、この刷り込みの度合いが種によって異なること[質問16]。エンペラーペンギンは特に繊細で、飼育員はペンギン型の帽子をかぶりヒナにエサを与えます[写真4]。その姿は動画内にも登場しますので、ぜひご覧下さい。人間のサポートを受けて生まれ育ったヒナも、発育や社会行動に支障はなく[質問18,19]、しっかり大きく成長し注4、コロニーに合流します。このように、卵を産むこと、温めること、ヒナが生まれ、育つこと、は親鳥とヒナが協働する一続きの営みですが、そこにそっと人間が手を添えるのが「孵化介助」なのです。

左から写真1-4(アドベンチャーワールド提供)
注1 エンペラーペンギンやキングペンギンなど足の甲の上で温める種は1個、巣内で温める種は2個の卵を産みます。
注2 キングペンギンにおける12月の繁殖時期の数字です。
注3 卵の殻は、大型の種や寒い環境で繁殖を行う種で厚くなる傾向があります[質問30]。
注4 ヒナは一時的に親鳥よりも大きく成長しますが、厳しい冬を乗り越えるためとも言われます[質問23]。
講演ポスターで一番手前にいるのがキングペンギンのヒナです。
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レクチャーについて
JT生命誌研究館の研究員をはじめとするさまざまな分野の研究者が、探究と発見の日々をお話します。
進行形の研究、そこで考えたこと、苦労話など研究を身近に感じる絶好の場です。
レクチャーを聞いた後には、会場も一体となって話の輪が広がります。入場無料です。