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BRHサロン

Viola da gamba と昆虫

井上 丹

京都、桂でヴィオラ・ダ・ガンバの演奏を聞く機会があった。プログラムの前半・後半で、17世紀と19世紀の2台の楽器を使いわけるという演出であった。そのため、見た目にも異なる楽器のもつ雰囲気と、演奏された16~18世紀の楽曲があいまって、音楽のエヴォルーションといったものを感じとることができた。この楽器は、ギターのようにフレットをもつ6弦のチェロといった趣の古典的な弦楽器である。

この演奏会で、メンバーの1人はバロック音楽にふさわしくジャケットを着用し、中世の絵画でお馴染みのマッシュルームカットと呼ばれるおかっぱ頭であった。演奏中に「どこかで経験したような」という感覚があり、後で、ふと、このデジャ=ヴのもとは、The Beatles にあることに思い至った。20世紀のバロックならぬロックの4人組は、その初期、やや古典的な略式ジャケットを着用し、ヘアスタイルはなんとこのマッシュルームカットであった。彼らは手にするギターやベースも、わざと古典的なかたちのものを使っており、ベースギターなどまるでフレットのついたヴィオラである。The Beatles はどうも、(少なくとも視覚的には)バロック音楽の伝統を継承するという方針を採っていたらしい。実際、彼らの初期の曲にはチェンバロを使ったものもある。

こんな発見はもう誰かが書いているのだろうと思う。しかし私は、2種の昆虫間の進化的関係を形態の観察から解き明かした人のように、少し嬉しくなってしまったのである。なにしろ弦楽器のかたちは昆虫に似ているし、beetle はもちろん立派な昆虫なのだから(ちなみにヴィオラ・ダ・ガンバのガンバは、イタリア語で脚を意味し、これはJリーグの「ガンバ大阪」のガンバでもあるそうです。機会があったら、この「脚のヴィオラ」による例の「オーレ!オレ!オレ!オレ!」の優雅な演奏など聞いてみたいものです)。

(いのうえ・たん/京都大学理学部教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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