生命誌ジャーナル

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マトリョーシカ型共生が支えるシロアリの繁栄

本郷 裕一(東京工業大学)

木材は固くて消化が難しいうえに、タンパク質などのもととなる窒素分が乏しく動物の食料には適していない。しかし、シロアリはそんな木材だけを食べて、熱帯地方では昆虫総重量の1/3を占めるほど繁栄している。その秘密は、シロアリのお腹の中で暮らす微生物との密接な共生関係にある。

目次

  1. 1.固い木材の消化は微生物の力をかりて
  2. 2.小さなお腹の中に広がる多重共生
  3. 3.培養できない共生細菌のゲノム解読に挑戦
  4. 4.ゲノムから見えてきた持ちつ持たれつの関わり合い

1.固い木材の消化は微生物の力をかりて

図1:ヤマトシロアリ
スケールバーは1 mm。
シロアリは人類が誕生するはるか昔、約1.5 億年前にゴキブリから進化した社会性昆虫だ。世界で約3,000種が知られており、熱帯地方では昆虫総重量の1/3をも占めている。シロアリがこんなにも繁栄しているのは、他の動物が食べない木材(樹木の木質組織)を主食としているからであり、人間にとっては木造家屋の大害虫だが、自然界では重要な分解者の一つとして物質の循環に大きく貢献している(図1)

木質は植物が動物に食べられないための防御と、からだの支持とを兼ねる丈夫な組織で、その主成分はセルロースである。それをシロアリは強靭な大顎で噛み取り、前腸内の突起で小さく砕く。実は、ほとんどの動物がもたないセルロース分解酵素をもっており木片の一部を消化するが、大部分は未消化のまま後腸に送られる。

後腸には、20〜300 µmの大きさの原生生物(単細胞真核生物の総称)が数万個体も共生しており、これらが木片を食作用で細胞内に取り込みセルロースを分解、発酵する(図2)。この時つくられる酢酸が、シロアリのエネルギー源となるのだ。腸内の原生生物を取り除くとシロアリは栄養失調で死んでしまうし、原生生物もシロアリの腸の外では生きられない密接な共生関係にある。

図2:シロアリの腸と腸内原生生物群
シロアリの腸(左)ヤマトシロアリ腸内の原生生物群(右)スケールバーは1 mm(左)、100 µm(右)。

2.小さなお腹の中に広がる多重共生

さらに、シロアリのお腹の中には原生生物だけではなく、数µmの原核生物(真正細菌と古細菌)が1千万個ほど共生している。それらが栄養合成などを担っているのだろうと予想されてはいたが、ほとんどの種が培養できないため詳しいはたらきはわかっていなかった。そこで、培養せずにDNA解析から腸内細菌の実態を見ようと考え、その多様性を知るために、リボゾームRNA遺伝子を用いた分子系統解析を行った。その結果、1種類のシロアリの腸内には20門以上にわたる多様な真正細菌が数百種以上共生していることがわかった。驚くべきことに、そのほとんどはシロアリ体内にしかいない独自の種であることがわかった。シロアリは世代を越えて集団生活をしており、その中で親から子、また仲間同士で糞食などを介して腸内微生物集団を共有している。解析結果からは祖先ゴキブリの腸内に共生していたと考えられる微生物群が1億年以上も受け継がれ独自の進化をとげてきたことが見えてきた。

細菌は腸内に一様に分布しているのではなく、種ごとに棲み分けていることが顕微鏡観察結果からわかっていた。私たちはその実態を知るために、細菌のリボゾームRNAを種ごと染め分ける技術を使いシロアリ腸内を観察した。すると、多様な真正細菌が原生生物の細胞表面、細胞内、さらに核内にも共生している姿が観察できた(図3、4)。つまり、真正細菌はシロアリ腸内に共生する原生生物に共生しているというマトリョーシカ人形のような多重共生が営まれているのである。

図3:シロアリ腸内原生生物の細胞内に共生する真正細菌
ヤマトシロアリ腸内原生生物トリコニンファ(左)と細胞内共生細菌Rs-D17(中)そして透過型電子顕微鏡で撮影したRs-D17(右)。スケールバーは20 µm(左、中)、0.5 µm(右)。

図4:シロアリ腸内原生生物の核内に共生する真正細菌
トリコニンファ(左)と2種の核内共生細菌、緑:RsTaN-K1、赤:RsTaN-K2(右)。スケールバーは20 µm。

3.培養できない共生細菌のゲノム解読に挑戦

シロアリ腸内に限らず環境中の微生物のほとんどは培養ができない。そこで、微生物群集全体のゲノムDNAを丸ごと解析し、群集全体の機能を培養を介さずに遺伝子の種類から推定するメタゲノミクスが近年盛んに行なわれている。しかし、メタゲノミクスでは種ごとの機能や相互作用まではわからない。そこで、私達は少数細胞から全ゲノムを増幅し個々の細菌種のゲノムを決定するシングルセル・ゲノミクス(註1)という戦略をとった。通常、ゲノム解読には10億個以上の細胞が必要であるが、培養不可能なためウィルス由来のDNA複製酵素を使い少数細胞からゲノムDNA全体を増やすという方法だ。

最初に挑戦したのは、ヤマトシロアリ腸内原生生物トリコニンファの細胞内共生細菌Rs-D17である。腸内で特に個体数が多い種なので、重要な役割を担っていると考えそれに注目したのである。トリコニンファには複数種の細菌が共生しているため、混ざり合わないようRs-D17が密集している部分の細胞膜を破って、一個体のトリコニンファからRs-D17を数百個回収し、酵素を用いてゲノム配列を増幅し約1.1 Mbのゲノム解読に成功した(図5)。これはシロアリ腸内細菌のゲノム解読に成功した世界初の例である。また、イエシロアリ腸内原生生物シュードトリコニンファの細胞内共生細菌CfPt1-2についても、同様に約1.1 Mbのゲノム解読に成功した。これらの成果から、シロアリ腸内の真正細菌の個々のはたらきが初めて見えてきた。

図5:トリコニンファとRs−D17
試料の回収、調製などゲノム解読の準備に3年かかった。

註1:シングルセル・ゲノミクス
1つないしごく少数の細胞からゲノムを解読する手法で、筆者の研究室を含む世界のいくつかの研究グループが挑戦している。現在、ある程度方法論が確立され、様々な環境中の未培養細菌種のゲノム解読が進んでいる。
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4.ゲノムから見えてきた持ちつ持たれつの関わり合い

Rs-D17、CfPt1-2いずれのゲノムも大腸菌の1/4ほどと小さく、細胞壁合成やDNA複製、修復など通常の細胞にとって不可欠な遺伝子をもっていない。一方で窒素化合物(アミノ酸やビタミンなど)の合成に関連する遺伝子は豊富に持っており、特にCfPt1-2細菌は空中窒素の固定能力ももつことがわかった。大気の約8割を占める窒素(N2)を動物は直接利用できないが、シロアリは共生細菌のおかげで利用できているのである。だから、窒素分の乏しい木材だけを食べて生きていけるのだ。さらに、CfPt1-2は原生生物による発酵で出る水素を、自身のエネルギー源として利用できることも明らかとなった。共生細菌による水素消費は、原生生物の木質発酵促進につながる。

こうして、シロアリが木材を粉砕、原生生物がそれを分解・発酵、細菌は窒素分の固定・合成と同時に木材の発酵促進も担うという全体像が見えてきた。このような多種の生物の共生関係がシロアリ独自の食性を生み出し、驚くほどの繁栄を支えているのだ(図6)

図6:シロアリ、原生生物、真正細菌の関わり合い

私たちは、シングルセル・ゲノミクスによるシロアリ共生微生物のさらなる解析を進めている。最近、ヤマトシロアリ腸内原生生物ディネニンファの細胞表面共生細菌Rs-N74(図7)が、セルロース分解酵素を分泌し、木片消化を助けていることを見出した。シロアリ腸内には数百種以上の真正細菌がおり、今後も解析を進めることで、共生細菌の新たなはたらきが見えてくると期待できる。わずか数ミリのシロアリ腸内に広がる、多層的な共生関係を見ることで、自然界の複雑さの一端を一歩ずつ明らかにしていきたい。

図7:シロアリ腸内原生生物の細胞表面に共生する真正細菌
ヤマトシロアリ腸内原生生物ディネニンファ(左)と2種の細胞表面付着共生細菌、緑:Rs-N74、赤:スピロヘータ(右)。スケールバーは20 µm。

本郷 裕一(ほんごう・ゆういち)

2000年東京大学大学院博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興事業団特別研究員、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2009年より東京工業大学大学院生命理工学研究科准教授。現在、同大学院教授。