北極のアクセル・ハイベルグ島で。背後の山地の黒い縞模様は化石林

相撲の曙と同じ名のアケボノスギという和名の木がある。樹木のなかでも横綱クラスの大きさだ。メタセコイアという属名も有名だが、昭和天皇が歌会始に最後に姿をお見せになった1987年、御題「木」にちなんで「わが国のたちなほり来し年々に あけぼのすぎの木はのびにけり」と詠まれたから、この和名も通りがいい。

落葉する針葉樹で、スギ科メタセコイア属の一属一種だが、なんといっても、生きた化石として有名だ。三木茂博士が戦争中に日本の化石で命名し、その直後に中国奥地で現生種が見つかった。戦後、日本各地の学校や公園、街路、また家庭などに、たくさん植えられ、大きく育っている。天皇は戦後の日本の再建ぶりを、すくすく伸びるこの木に託された。夏は青々とした小さな葉をたくさん茂らせ、冬には落葉してすっきりとした樹形をみせる。

私もこの木になぜかひきつけられた。発見のドラマを調べ、生きている化石そのものを見ようと、「故郷」の中国奥地や「森林の化石」の北極圏などに旅を続けてきた。中国四川省と湖北省境にある現生種の発見地を三木博士の未亡人と1988年に訪れた。外国人の立ち入りが開放されたばかりで、わたしたちが初めての訪問者だと、案内の地元公安担当者が話していた。

カナダの北極圏にあるアクセル・ハイベルグ島東部の北緯80°付近の丘に、4500万年前の生存時のまま根を張ったメタセコイアなどの「森林の化石」が1985年に発見された。ここも1992年に訪れた。現在、地をはう矮性のヤナギしか生えない極地に、かつてメタセコイアの大森林があったのを確認できた。それは、地球が過去に行なった温暖化の大実験を栃梯させる光景だった。この「森林の化石」を詳しく調べると、いま心配されている地球温暖化を予測する手がかりが得られるかもしれない。

アケボノスギは日本の戦後史を、メタセコイアは5000万年の地球の歴史を、それぞれ物語っている。

(さいとう・きよあき/毎日新聞科学部)