ニュートラルな意識が捉えた細胞のイメージは……。


42cm×59.5cm トロンティッシュー '98 JT生命誌研究館ポスターのための作品 80cm×80cm トロンティッシュー '97 80cm×80cm トロンティッシュー '97 42cm×42cm トロンティッシュー '98 42cm×42cm トロンティッシュー '98
素材:パラフィンワックス・水彩絵の具・ダーマトグラフ
(写真=坂本政十賜)

いつからか夜空を見上げ、月を眺めるようになった。ちょっとした瞑想タイムである。静かで不思議な美しさに愛着を抱き始めてから、挨拶したり、意味のないことを話しかけたり、妙な癖もついた。月と向かい合う時はほとんどボーッとしているに等しいが、穏やかでクリアーな精神状態になれる。小刻みな秒針のような時が太古から未来への緩やかな時の流れに変わり、自分の中で様々なイメージが膨らみはじめる。気持ちを落ち着かせたい時の恰好の時間である。そんなことを繰り返すうち、自然の中にいる小さな生き物としての自分を確認できたことがあった。頭で理解したというより普遍的な時間の中にいるという実感めいたものだった。

その頃は、背中を後押しされているかのような時間のサイクルの中で暮らし、不必要なものが多すぎる煩わしさを感じながらも、ニュートラルな自分が保てず、振り返る余裕のないまま生活していた。そんな中で、瞑想タイムが妙な安堵感を与えてくれたのである。焦りのようなものが減り、ふっと自分を見直すことができた。

その時、自分の意識の中に浮かび上がってきたのは「自分を保つ」というシンプルなことだった。逆に言うと「自分らしい状態を保つ難しさ」とも言えるが、「自分を保つ」ことをはっきりと意識することは制作上での大きな収穫となりキーワードとなった。それから、作品の形態も変わっていった。

制作は自分自身を確認する作業だと思う。自分の考え、好きな世界、信じられる事柄を再確認し、そこから生まれたものを一つずつ選び取って作品という形に繋ぎあわせていく。時代にあったものや、新しいものを作ろうとばかり躍起になるのではなく、たとえば種を蒔き穀物を育てていくようなスパンで、自分を取り巻く世界を等身大に見つめて作品を作っていければよい。アートという世界の中で自分の作品がどういう位置にあるのかわからないし、そんなことには興味もない。ただ、どこかでささやかな力をもったものになれば面白い。

おがわ・やすお
1968年佐賀県生まれ。94年多摩美術大学卒業。細胞などを想起させる形態を描いたパラフィンワックスによる平面作品を中心に制作。インスタレーションも手がける。日本ブラジル修好100年展(サンパウロ)、フィールドワークイン 藤野(神奈川県藤野町)をはじめ、グループ展、個展多数。