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Special Story

化学物質でつながる昆虫社会

体表炭化水素でシロアリを分類する:竹松葉子

家を食べるシロアリはおなじみだが、日本に何種類もいて、その分類が簡単でないことはあまり知られていない。ふわふわしていて柔らかく、特徴を見つけ難いうえに、同種間での変異が大きいのだ。別々の巣から採集した外見の違うシロアリが同種であることもあれば、外見が同じに見えても別種のこともある。「かたち」での分類は難しいのだ。それで、いっそシロアリ自身に決めてもらおうと考え出したのが、同胞認識物質である体表炭化水素を用いる分類法である。その組成が同じなら互いに仲間だと認め合うので「同種」、違えば認め合わないだろうから「別種」というわけだ。

日本のシロアリの中で、とくにこの方法が役立つのはヤマトシロアリ属だ。シロアリ目のほとんどは熱帯産だが、この属は珍しく温帯性で、北海道まで分布している。イエシロアリと並ぶ家屋の大害虫として恐れられており、日本では数種が知られているが、ちょっと見では区別がつかない。頭部が丸いか四角いか、毛が2本か4本か、といった特徴でなんとか区別してきた。たとえばヤマトシロアリとキアシシロアリは、兵隊シロアリの頭部の先端の毛が2本か4本かで区別する。しかし、ヤマトシロアリの中でも、沖縄亜種は頭部背面の毛が多いという点ではむしろキアシシロアリに似ている。こうなると、いったいどの特徴がヤマトシロアリの分類を決定づけるのかわからなくなる。

そこで、ヤマトシロアリの3亜種とキアシシロアリの体表炭化水素を比較した。すると、ヤマトシロアリの本州亜種と九州亜種はまったく同じ組成、沖縄亜種は違うとわかり、本州亜種と九州亜種は同種で、沖縄亜種は別種となった。奄美大島のキアシシロアリは、どのヤマトシロアリの亜種とも異なる組成をもっており、やはり別種だった。それがわかった後で形を見ると、ヤマトシロアリの特徴は先端の毛が2本というよりも、むしろ頭部背面の毛が少ないことに表れているとわかってくる。形による分類の暖昧さを、体表炭化水素の分析で乗り越えていけそうだ。
 

分類の暖昧さをなくす

これまで、兵隊シロアリ頭部(左列)の先端の毛が2本ならヤマトシロアリ、4本ならキアシシロアリとされてきたが、体表成分の分析(右列)から、ヤマトシロアリの沖縄亜種は、本州・九州亜種と別種であるとわかった。形態による分類は微妙だが、体表成分による分類は明快だ。

ヤマトシロアリ。

働きシロアリ。

ヤマトシロアリ。

兵隊シロアリ。

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