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Gallery Special

[企画展示]生命の樹
-科学と芸術の実験場-

イメージの共感 :吉本忍

「生命樹」は、万物の根源的な生命を樹木になぞらえて象徴的にあらわした形象である。また、その延長線上では、生命樹は現実の世界と観念的な世界のすべてを統合的に包括した「世界」や「宇宙」の全体像、すなわち世界観や宇宙観を象徴する形象としても捉えられる。もとより、生命樹は、われわれのイメージの世界にのみ存在する目に見えない木であり、現実の世界にはあるはずのない木である。

そうした樹木に擬せられた生命樹の形象は、過去と現代とを問わず、世界各地のさまざまな民族のもとに見いだされる。このことは、これまでに人類が創作してきた多種多様な形象のなかで、とりわけ生命樹の形象が人々に超越的なイメージを抱かせ、そのイメージによって喚起される象徴性が時代を超えて共感されつづけてきたということにほかならない。

生命樹によって象徴されるイメージへの共感は、本質的には同一の民族のもとにおいて伝統的に継承されてきた。ただし、インドネシアのスラウェシ島中部山岳地域に住んでいるトラジャ人のもとでは、異文化のなかで生み出された生命樹がトラジャ人自身の手で生み出された生命樹と併存し、それらが伝統儀礼のなかでともに共通 する機能を果たしてきたという稀な例が確認されている。

彼らの社会では、生命樹があらわされた2種類の布が聖なる布のうちに位 置づけられている。それらは、トラジャ人自身の手によってつくられてきた更紗(さらさ)と、インドから、おそらくは大航海時代以降にもたらされたと見られるインド更紗である。これらの更紗には、生命樹がいずれも布の中央に大きくあらわされているが、樹形は異なっている。また、インド更紗の生命樹は、ヒンドゥー教や仏教のなかで世界や宇宙の統合的な象徴である須弥山(しゅみせん)を土台としている。一方、トラジャの更紗の生命樹は、その根もとにしばしば彼らの生活風景が描かれている。

このように双方の更紗では、生命樹の表現様式に明らかな違いが認められる。しかし、それらの更紗の用途には違いがなく、とりわけ盛大に執り行われることで知られる葬送儀礼では、壁や天蓋を飾る布、幡(ばん)、棺や供犠とされる水牛の胴体を飾る布などとして、分け隔てなく使われてきた。また、それらの更紗にあらわされた生命樹は、統一的世界の象徴であるとともに、天界と下界をつなぐ梯子としての機能をもつものとして理解されてきた。

こうしたことは、インド更紗がトラジャ人のもとにもたらされた当初、異文化の所産である生命樹の形象がトラジャ人のイメージと共感しうるものであったということを物語っている。そして、そうしたイメージの共感は、今日まで継承されている。しかも、長い年月のあいだに、インド更紗が異文化の所産であることは忘れ去られ、最近までそれらは天界から舞い降りてきた布、あるいはかれらの祖先がつくった布として語り伝えられていた。
 

【トラジャの描き染め】
(儀礼用装飾布)

4m近くにおよぶ長大な布に描かれた樹は、大地から天に向かってまっすぐに伸び、その枝は無数の葉と花と丸い実をつけ、中には鳥が暮らしている。下の方に見える人間の寸法と比べると、この樹がいかに高い樹であるかがわかる。
(協力=桐生地域地場産業振興センター)

(よしもと・しのぶ/国立民俗学博物館教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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