本土最南端、佐多岬にて

灯台。白い波。太平洋。南の島。映画なら加山雄三が現れそうなシチュエーションだが、これが私のフィールドだ。研究対象のイソアシナガバエは、海岸の岩礁地域だけに生息しており、昆虫研究者にもあまり人気がない。採集は人に頼めず、自分の足で稼ぐことになる。テントを積んだ50ccのバイクで日本の海岸線をほとんど走破し、近海の島も30ほど調査した。生命誌研究館でDNA解析技術の手ほどきを受けていた時、『おさむしニュースレター』に、「どこどこのなになにオサが欲しい」と書けば、しばらくしてアルコール漬けのサンプルが送られてくるのが、どれだけ羨ましかったことか。

波しぶきのかかる、フジツボがびっしりついた岩場に到達するには、何十mもの崖を降りることもある。上からは直射日光、下からは海面からの反射光で、目も開けていられないほどの眩しい世界だ。一緒に採集に行った友人は暑さでダウンした。捕虫網でスィーピング(すくい取り)したハエは、頭から網をかぶって吸虫管で吸う。足下には白い波が押し寄せ、耳には岩場に砕ける波の轟音が恐ろしい。しかし、目の前に広がる大きな海を見ながらの、この豪快な採集はたまらない魅力でもある。

紫外線の強い海岸に生息する生き物は、内陸性のものより突然変異率が高く、進化速度が速いのではないか。淡水の水辺で多様化したアシナガバエ科のうち、イソアシナガバエだけが海水環境へ適応したのだろうか。生命誌研究館で習得した研究方法を駆使して探究していこうと思う。

(ますなが・かずひろ/滋賀県立琵琶湖博物館学芸員)