言語と音楽の機能画像
 1970年代に入り飛躍的進歩を遂げたコンピュータ技術は、医学にも劇的な効果をもたらしている。その口火を切ったのが、70年代初頭に登場したコンピュータ断層、CT(computed tomogprahy)である。それまでのX-線写真は投射画像しか提供できなかったが、これで詳細な三次元情報が与えられるようになったのである。
 その興奮が覚めやらぬ70年代後半、今度は、放射線を全く使わず、さらに詳細な構造画像を提供する画像法の革命児が登場した。それが、磁気共鳴画像、MRI(magnetic resonance imaging)である。
 これら「生体の構造」を写し出す技術と並んで、「生体の機能」を写し出す画像法の開発も進められた。一般に「機能画像」と呼ばれているものである。最初に登場したのが陽電子断層、PET(positron emission tomography)で、脳科学では、酸素の放射性同位元素、でラベルした水を投与する法として活躍した。
 90年代に入り、MRIは機能画像の分野でも革命をもたらす。放射線も放射線同位元素も使わずに、脳機能を画像化することに成功したのである。それが、ファンクショナルMRI(fMRI)と呼ばれる機能画像法である(図5)。
 ファンクショナルMRIの登場で、言語と音楽に関するいくつもの新しい知見が得られた。そのひとつが、言語と音楽の同一性である(図2)。同時に、「読む」という行為にともなう「脳の使われ方」には、第一言語依存性があることも明らかになった(図6)。
 これらの研究から、後頭葉附近の読字機能の生理的な局在が詳細に解明されている。ほとんどの言語に共通して使われる部分(FG)、音節の解読に特異的な部分(LG)、漢字の解読に特異的な部分(ITS)、及び、五線譜の解読に特異的な部分(TOS)である(図7)。
 勿論、これらの部位は、もともとその機能を持って生まれたものではなく、読字機能の獲得に伴って生まれ自己形成された、「獲得された機能局在」であることは言うまでもない。だからこそ、漢字の習得なしに英語の読字機能を獲得した米国人は、漢字が読めるようになってもITSは賦活せず、音節の解読を習得せずに読字機能を獲得した日本人は、アルファベットで書かれた英語の音節解読を、LGの賦活なしにこなすのである(図6)。
(図2)
「読む」機能画像(言語と音楽)
機能画像とは与えられた課題を処理する過程で使われる脳の部位(賦活部位と呼ばれる)を画像化する技法である。ここでは日本語、英語、楽譜を自由読みこなす被験者が「読む」という行為で用いた部位が示されている。「読む」と言う行為における脳の「使われ方」には驚くほど、共通性があることがわかる(Nakada T. et al. NeuroReport 9: 3853-3856, 1998)。臨床医学における慣例から、断層画像提示の左右が通常とは反対であることに注意。
(図5)
MRIとfMRI
MRIが構造を写す画像法であるのに対し、fMRIはその時点で機能している脳の部位をも写しだす画像法である。この例では「言語の理解野」が写し出されている。
(図6)
Bilingualの機能画像
「読む」という脳機能の獲得における「脳の使い方」は最初に獲得した言語によって決定されることを示した機能画像。共に、日本語と英語をきちんと読みこなす人の機能画像であるが、左は日本語を第一言語として獲得し、その後、英語を第二言語として獲得した人、右は英語を第一言語、日本語を第二言語と獲得した人の場合である。脳の使い方は第一言語によって決定され、第一言語が日本語であったか英語であったかにより、かなりの違いを示す。一度「使い方」を決定した脳は、第二言語の獲得においてもその「使い方」を変えない。第二言語が第一言語の延長上にあることが良くわかる(Nakada T. et al. Neurosci Res 40:351-358, 2001)。実は、音楽も同様であり、第二、もしくは、第三言語として処理されることは、既に示したとおりである(図2)。
第一次言語が日本語の人
第一次言語が英語の人
(図7)
読字機能に伴う生理的機能局在部位。
FG:fusiform gyrus、LG:lingual gyrus、ITS:nferior temporal sulcus、TOS:transverse occipital sulcus。

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