遠くから見ると、光の輪をともなった漆黒の円、近くに寄ると、その中心に取りつけられたレンズの向こうに、虹色に縁取られた蝶が浮かびあがる。

本誌0号で紹介した崔在銀さんが、生命誌研究館のためにつくった新作“瞬・生”。直径1.2mの半球が壁面から突き出し、中の標本は取り替えることができる。

レンズの向こうに浮かぶ蝶は、あたかもブラックホールに落ちてゆく物体の、凍りついた時間のようにも見える。

世界の各地で和紙を土中に埋め、バクテリアによる腐食模様を使って作品にするワールド・アンダーグラウンド・プロジェクトを進めてきた崔さん。これまでは地上と地下との目に見えない相互作用がテーマだったが、そこから一歩踏み込んで、生命の内と外との関係を描きたかったという。

「不可逆な流れのなかで生命体は、安定した状態で『いのち』を維持しているように見える。しかし実際は、生命体の内部は、外部との間に流れる隠れたエネルギーの循環によって、不安定な均衡状態を保っているだけなのではないでしょうか」と崔さんは語っている。

展示ホールをにらむように据えつけられた"目玉''は、直線的なインテリアの中、ひときわ異彩を放つ
直径20cmの巨大レンズは、見る距離や角度によって、内部に組み込まれた蝶を、蜃気楼(しんきろう)のようにゆらめく色や形に昇華する
(写真=外賀嘉起)