赤痢アメーバ。直径約20ミクロン。内部の丸い部分は核、その中の黒く見える点は染色された核小体 ランブル鞭毛虫。染色で紫色に染まっている。両眼のように見えるのが核。細胞の大きさは短径およそ5ミクロン

動物、植物、菌類、それにゾウリムシ、ミドリムシなどの原生生物は、細胞内に核をもっていることから、真核生物と呼ばれ、細菌のように核をもたない原核生物と区別されている。原核生物は、大腸菌やらん藻などの真正細菌と、メタン細菌やイオウ細菌などの古細菌の二つに大別される。最近の遺伝子の比較研究から、真正細菌に比べて、真核生物と古細菌とは互いに近い親戚であることが明らかになってきた。しかしながら、このことは真核生物の核のDNAに関してのことであり、真核生物の細胞中にあるミトコンドリアや葉緑体などの細胞内小器官の由来は別である。ミトコンドリアや葉緑体は核とは別に独自のDNAをもっており、これらは系統的には真正細菌に近いのである。このことから、これらの細胞内小器官は真正細菌が真核生物の祖先に共生して進化してきたものであることがわかる。

ところで、動物や植物などの、われわれのよく知っている真核生物は、いずれもミトコンドリアをもっているから、真核生物はどれもミトコンドリアをもっていると考えられがちである。ところが、実際にはミトコンドリアをもたない原生生物がたくさんいるのである。たとえば、赤痢アメーバ Entamoeba histolytica や同じようにヒトの腸内に寄生して下痢の原因になるランブル鞭毛(べんもう)虫 Giardia lamblia などは、核をもった真核生物であるにもかかわらず、ミトコンドリアをもたない。これらは、もともとミトコンドリアをもたないもので、ミトコンドリアが共生する以前の真核生物の祖先型生物なのであろうか。あるいは、寄生生活に入ってミトコンドリアが不要になり、進化の途中でこれを失ってしまったものなのであろうか。これらの原生生物が、真核生物の進化の系統樹のどこに位置するかという問題は、真核生物の初期進化を明らかにするうえで重要である。

われわれは、リボソーム上でタンパクを合成する際に関与する遺伝子(ペプチド鎖伸長因子)の解析から、ミトコンドリアをもたないこの2種の原生生物が、ミトコンドリアが共生する以前の真核生物の祖先型生物である可能性が高いことを明らかにした。さらに、赤痢アメーバよりもランブル鞭毛虫のほうが、先にほかの真核生物から分かれたものであることもわかった。したがって、ランブル鞭毛虫は、真核生物のもっとも古い系統の一つに属する可能性が高い。

ランブル鞭毛虫は、二つの同じ大きさの核をもっており、それぞれの核は一倍体である。したがって、進化の過程でもしもこの二つの核が融合したとすれば、動物、植物、菌類などのような高等真核生物のもつ二倍体の核が生じることになるわけで、この原生生物はその意味でも祖先型の真核生物であることが示唆される。

(はせがわ・まさみ/統計数理研究所教授、はしもと・てつお/同助手)