① 多くの動物では、松果体は頭頂部にある。哺乳類でも胚発生の初期には頭頂部にあるが、しだいに脳の内部へと入り込んでいく。(上はニワトリ胚の頭部断面の顕微鏡写真。矢印が松果体で、下部の青い部分は脳)

脳の奥深く、左右の大脳皮質に隠れるように、松果体という小さな組織が埋もれている。松果体の機能は十分に解明されているとは言い難いが、身体のリズムの調節に関与している器官であることは間違いない。たとえば、哺乳類では松果体はメラトニンというホルモンを周期的に分泌し、それが1日のリズムを支配していると考えられている。

松果体は、哺乳類でも発生の初期には頭部の表皮の真下にあるが、発生が進むとともにしだいに脳の奥へと潜り込んでいき、大人になると脳の奥に入ってしまう。一方、魚類・鳥類などでは一生を通じて、頭のてっぺんにある(写真①)。しかもこれらの動物では、松果体は光を感じることができるということがわかっている。

現在までに、魚類だけでなく両生類、一部の爬虫類や鳥類でも松果体が光を感じることが実験的に確認されており、哺乳類ではその証拠はない。結局、松果体はもともと頭のてっぺんで光を感じていたのが、進化とともにしだいに脳の中に入り込み、最後には光を感じる機能をなくし、完全な内分泌器官としてはたらくようになったらしい。

では、この進化の過程は具体的にどのように進んだのか。詳しくは他の進化の問題と同様あまりわかっていない。しかし、これに関連して最近私たちは、一つおもしろいことを見つけた。

光を感じることがまったくできないはずの哺乳類(具体的にはラット)の松果体の細胞を早い時期に取り出してシャーレの中で培養してみる。そうすると、本来出現しないはずの視細胞という光を感じる細胞が現れてくるのである(写真②)。つまり哺乳類の松果体には、昔、光を感じていたころの記憶をいまももつ細胞がいて、組織の中ではその能力が抑制されている。ところが、彼らを組織の重圧から解放してやると伸び伸びとその能力を発揮するのである(ああ、まるでどこかで聞いたような話じゃないか!)。

それではいったい、どのようなしくみで視細胞になる能力は抑制されているのか。私たちの研究によって、松果体に入り込んでいる交感神経が重要な役割を果たしていることがわかってきている。松果体は、鳥類とイモリなどの一部の爬虫類では、体内時計としてはたらいているが、哺乳類では体内時計は別のところにある。脳の中の視交叉上核という部分がそれで、そこからの信号が、交感神経を介して松果体のリズムを支配している。この交感神経が出すノルエピネフリンという神経伝達物質が、視細胞の分化を抑えていることを、私たちは実験で明らかにした。つまり、培養した松果体の細胞にこの物質を与えておくと視細胞は出現しないのである。松果体を取り巻くこういった変化が、進化の過程でどのようにして起こったのか。それは今後に残された興味深い問題である。

② ラットの松果体には、視細胞は存在しないが、早い時期から取り出した松果体の細胞を培養すると視細胞が出現してくる。左は通常の松果体に見られるのと同じタイプの細胞。右は培養によって出現した視細胞(茶色に染まった部分) ③ 松果体の細胞をばらばらにして培養すると、組織内では現れない細胞が分化してくる。視細胞(上から二番目の赤い細胞)もその一つで、ノルエピネフリンの存在により組織内では分化が抑制されていることがわかった

(あらき・まさすけ/生命誌研究館主任研究員、かとう・かずと/同コミュニケーションスタッフ・研究員)