オサムシを採集中の、大津省三生命誌研究館顧問(下)と大濱武研究員。(高槻・摂津峡で) リニューアルした「進化の部屋」。(写真=外賀嘉起)

「虫ケラ」という言葉がある。“とるに足りない”というニュアンスである。しかし、生命誌研究館にリニューアル・オープンした「進化の部屋」を見た後では、“虫もなかなかやるね”と思ってくださるに違いない。落葉の下をはい回る、黒っぽくて地味な甲虫、オサムシのDNAに、「とるに足りない」どころか、生命の多様化のメカニズムや、日本列島形成史など、壮大なドラマが書き込まれていたのである。

本誌通巻11号にも掲載したが、日本特産種のDNA系統樹づくりの結果、形態だけで調べていた時にはわからなかった興味深い知見が得られたので、「進化の部屋」を大幅に変えた。計算外の出来事だったけれど、成果が出たからこそ必要になった嬉しい苦労である。

まず、飛べないというオサムシの特徴が幸いして、系統は、地域と密接に関連していることがはっきりした。次に、進化の実体が見えてきた。自然選択の結果、徐々に変化する—これまでなんとなく進化に対して抱いていたこのイメージが、今変わりつつある。つまり、DNAと形態とを組み合わせた研究から、DNAの変化がある形態の変化を起こし、それが環境の中で選択されていく様子が見えてきたのである。それは、比較的短時間でいっせいに分化が起きること、異なる場所で同じ形態の“種”分化が見られることからわかる。「平行放散進化」と名づけられるこの現象をオサムシが示唆してくれた。チョウ、植物など他の例も含めて進化の妙を楽しんでいただきたい。

中央の大きな展示台では、明滅する光の流れの中に、地質学による日本列島形成史と、マイマイカブリの種分化とが、みごとに対応する様子を示した。マイマイカブリは、2000万年前に大陸から切り離されて多島海化した太古の日本列島の上に乗り、それと運命をともにしたゆえにそのDNAが列島形成史を語るのである。今、解析の網は、世界のオサムシヘと広がっている。大陸と日本列島の関係や、オサムシの起源など、興味は尽きない。

これは、当館を中心に、昆虫学者、地質学者、アマチュア昆虫愛好家のつくるオサムシネットワークの成果だ。実験の成果だけでなくこのネットワークも他に類のないものであり、生命誌ならではの研究の進め方として大事にしていきたい。

このような現在進行形の研究と展示の有機的なつながりこそ、“科学のコンサートホール"を自称する生命誌研究館の、重要な柱である。「進化の部屋」も、進化していく。当分オサムシから目が離せない!

(本誌:谷本周也)