今日のメニューは・・・。
 町役場職員から一転、フランス料理店のフロアマネージャーとなった。フランス料理店「ももちどり」は、田圃に水を張った池の中に浮かぶように建っている。山裾の竹林が水面に映る。カメや多くの小魚も住みついた。泳ぐアメンボ。モミジに産卵するモリアオガエル。今年は池干しをやめて、彼らの成長を見守っている。
 わが郡上(ぐじょう)大和町は美濃路の山中にある。室町時代、郡上郡一帯を治めていた東氏(とうし)の9代常縁(つねより)は、『古今集』の学び方の秘伝を確立したことで知られている。大和町ではこの伝承文化を取り上げ、和歌をテーマにした「古今伝授の里フィールドミュージアム」を建設して、歌の町づくりを進めている。フィールドミュージアムというのは、館内の展示だけでなく、周辺の史跡や景観、生息する生き物なども展示品と位置づけて、点在する建物と自然が融合した空間を、広く一つの野外博物館とみなす構想である。

「ももちどり」は、このフィールドミュージアムの一部として建てられた。全面ガラス張り。吹き抜けの高い天井。明るい館内中央には栃の原木(樹齢500年)が斬新にデザインされた巨大なテーブルがある。パリの三星レストランで修業したシェフが、本格的なフランス料理を提供する。初めは戸惑いや危倶もあり、船出は順風満帆ではなかった。

3年たった今では、県外からもパリの味を求めて大入りの人気である。午後のひととき、農作業を終えた地元の人が集まってコーヒータイム。なかには長靴やスリッパの人も。「鳥たちが集いさえずる」という古今伝授の言葉にちなんで命名された「ももちどり(百千鳥)」にふさわしく、人々は集い談笑する。ガラス越しに城山を眺めながら、自然の景観を大切にしようといった話がはずむ。フランス料理店はわが里に静かな意識革命をもたらしつつあるようだ。

(みずの・まさふみ/古今伝授の里フィールドミュージアム主査)