尾瀬総合学術調査のおりに。

40年ほど前のこと、英語の小さな本『英国の野生の花と昆虫との関係』(1875)を読んで、花と昆虫の密接な関係を知った。興味をもち、もっと深く知ろうと日本語の本を探したが、花の生態にちょっと触れている程度で、花生態学専門の書籍は見いだせなかった。若かった私は短絡的に、日本語の本がないのは日本での研究がないからだ、それなら自分でやってみようと考え、翌春からルーペとノートを持って野外に出た。

フィールドにある雑多な情報の何が重要なのかを模索しながら、ひたすら花を観察し、文字におきかえ図や写真として記録した。最初のヒットは『植物研究雑誌』にのった「クサギの蛾による花粉媒介」(1973)で、海外から何通もの別刷請求がきた。しかし、国内からは何の反応もなく、それが当時の日本における花生態学への関心度を示していた。

時代が変わり今では花生態学に興味をもつ人も増え、植物の生態や分類を研究するうえで避けて通れない課題とされている。日本でも多くの論文や本が出版されるようになった。しかし、それらは重要な文献ではあっても一般の人には難解なものが多い。指輪などのアクセサリーをつくる錺(かざり)職人の私自身が、専門書の理解に苦労した経験から、花の生態のおもしろさを書くときは誰にも解るようにと、つねに心掛けている。

中村桂子先生に大きな新聞書評をいただいた『花に秘められたなぞを解くために』(農村文化社)や『花と昆虫がつくる自然』(保育社)も解りやすくと思って書いたものだ。今後もアマチュアとしての経験を生かし、平易な表現で花の世界を紹介し続けたいと考えている。

(たなか・はじめ/ 錺職人)