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Special Story

DNAを描き出す

音を作る:岩野剛晴

生命誌研究館は"科学のコンサートホール"。今回は、映像を使ってDNAの構造と働きの一部を"演奏"することにチャレンジしました。まだまだ演奏は手探りですが、舞台裏にはそんな私達を支えてくれた多くの人たちの協力がありました。 「コンピュータグラフィックス DNAって何?」ができあがった過程を皆さんも一緒にたどってみてください。


現在はデジタル情報としていろいろな音の素材が簡単に手に入る。しかし今回はあえてアナログで音を作ることにした。出回っている素材集に、ぴったりくる音がなかったからだ。細胞の内部で働くタンパク質の効果音となるとなおさらである。工藤さんからの要望は水の中にいるような柔らかい音。

まず、水の中をイメージさせる音は何か、どんな擬音があるかを検討した。反復する音や長く伸びる音が、水中や水を連想させるのではないかと、いろいろなフレーズを考えた。次に、このフレーズを再現できそうな道具を準備し、音を収録した。最初は別のシーン用に、イメージできている簡単な音を収録して準備運動をすませ、続いて問題の音に取りかかったが、なかなかイメージに近い音を創りだせない。素材を食べ物や日用品などに求めたので、収録現場を知らない人が見たら、ゴミを散らかしているようにしか見えなかったろう。

昼食用に買ったフライドチキンをコップに投げ込んだり、ゴム手袋をしてラップを引っ張ったり、細かくした銀紙を握りあわせたりと苦心したが、大半はイメージとはかけ離れた音だった。そんななか、夏ミカンの表面を指で強く擦る音や、ペットボトルに入れた水を細かく泡立てる音など、加工すれば使えそうな音がなんとか収録できた。そこまでに時間を取られたので、音作りにあてられる日数はほとんどどなかった。

イメージにぴったり合う音を取りだせないまま、手当りしだい収録した音を、パソコンのソフトに入れ加工作業に取りかかった。ここで、イメージする音の響きを得られるかどうかが勝負。ソフトの効果にも限界はあるが、今回は、この段階で取りあえずOKを得ることができた。最後に、映像に効果音を乗せて完成。苦労して作った音が作品を壊すことなく、映像と一体となっているのを見て、ひと安心した。

mRNAがアミノ酸に翻訳されるところ。

(いわの・たけはる/富士通SSL )

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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