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生命誌ジャーナル

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<100号テーマ>

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RESEARCH 02研究室再訪

生きもの研究の広がりと生命誌のこれから

生きものの時間に見る普遍と多様

吉村 崇(名古屋大学・トランスフォーマティブ生命分子研究所)

聞き手:JT生命誌研究館 表現を通して生きものを考えるセクター 川名沙羅、齊藤わか

1. 脳の中で光を受け取り、季節を知るウズラ

09年の記事ではウズラの研究で見えてきた「春ホルモン」について教えていただきました。その後、季節を感じるための光受容体をウズラの脳内で同定されたそうですね。脳の中で光を受けとるってどんな感じだろうと不思議です。

吉村
私たちは目でしか光を感じられませんからね。しかし、ほ乳類以外の脊椎動物は基本的に脳内で直接光を感じることができます。長年知られてきたのは体内時計のコントロールに重要な役割を担う松果体で、ほ乳類だけがここでの光受容能を失っています。私たちがウズラで同定したのは松果体よりもさらに脳の深い部分にある光受容体です。

ウズラの春ホルモン分泌に関わっているのは目でも松果体でもないということは、以前から明らかになっていたのですか?

吉村
そうです。目と松果体に光が届かなくても季節繁殖ができることはこれまでの研究で示されていましたが、脳内のどの細胞でどの分子が光を受け取っているのかが未解明でした。そもそも脊椎動物の脳深部光受容の研究の歴史は古く、最初の報告は動物行動学者のカール・フォン・フリッシュ(Karl von Frisch)による1911年の論文まで遡ることできます。「ミツバチの8の字ダンス」の発見で知られ、後にノーベル賞を受賞しているフリッシュ博士は、学生の時に魚の知覚と体色の関係を研究していました。魚の体色の変化がどこで感知されているかを知るため、目隠ししたり、視神経を切ったり様々な実験をした結果、どうも頭の中で光を感じているらしいことを見つけたのです。

分子を扱えなくても観察眼とアイディア次第で大事な問いを見つけ出せるということですね。100年以上続いていた問いを細胞、分子レベルで解くことができたきっかけは何だったのでしょうか?

吉村
様々な脊椎動物のゲノムが解読されたことが大きな転換点でした。明るさや色を知覚するために必要な、光受容タンパク質、ロドプシンや錐体オプシンの仲間の遺伝子で機能が分かってないものがゲノム上に幾つかあると気が付いたのです。この中のどれかがウズラの脳の中ではたらいているはずだと予想しました。候補遺伝子の発現を順に調べ、その中のひとつのオプシン5というものが脳内で発現していることを突き止めました。そのタンパク質が光に応答するか、ウズラの脳の中でオプシン5を発現する細胞が光に応答しているかなどの実験を重ねて、脳深部の光受容器の場所を特定し、さらにそこでの光受容が季節繁殖を制御していることを証明しました。

季節繁殖を制御する情報の伝達

光を受け取るところから、春ホルモンの分泌までをつなげて理解できるようになってきたのですね。脳深部の光受容細胞も私たちの目の中ではたらいている光受容細胞と同じような姿形をしているのですか?

吉村
基本構造はよく似ています。ただ、目の網膜にある細胞にはパンケーキ状の膜構造が積み重なった外節と呼ばれる構造があり、その膜上に大量の光受容タンパク質が埋まっています。脳深部の細胞にはこの構造はありません。膜が積み重なったこの構造がなぜ必要かというと、光を受け取る感度を上げるためです。おそらく脳深部ではそこまで高い感度は必要ない。夜空の満月を昼のお日様と間違っては困りますから。実際、脳の深部まで届くのは直射日光の2000分の1程度の明るさです。頭蓋骨を透過したぼんやりした光が脳の中にはいってきて、今が昼なのか夜なのかを区別しているようです。

光を受容する細胞の形のちがい(右)桿体細胞:眼球の網膜上に存在し、わずかな光でも感知することができる。
(左)脳深部光受容細胞: ウズラの脳深部ではたらく細胞。外節はないが桿体細胞と同じく繊毛をもつ。

同じ光受容でも外界を見るための情報と季節の移ろいを感じるための情報では、必要な感度が違うというのは直感的にもわかりやすいです。お話を伺ってから細胞の絵を見比べると桿体細胞はずいぶん洗練された形なんだと感じます。

吉村
目、松果体、脳の深部とはたらく場所が違う光受容細胞ですが、その発生過程には共通点があります。目や松果体は脳内の空間、脳室が膨らむことによって形成されます。私たちが見つけた脳深部の細胞は脳室と接触している細胞です。つまり目や松果体ができてくる起源となる領域に、より祖先的な構造をもつ光受容細胞をみつけたのです。

目も松果体も、脳深部の光受容細胞もみな同じ領域からできてくると聞くと、私たちにも脳の中で光を受け取る能力があってもよさそうなのにと思ってしまいますが…。進化の過程でその能力は失ってしまったということでしょうか?

吉村
おそらくそうでしょう。ほ乳類は他の脊椎動物にくらべて脳が大きく、脳の領域ごとの分業化がはっきりしています。分業化が進む過程で失った機能もあるのではないかと思っています。
実は私たちが見つけたオプシン5のメッセンジャーRNAはマウスの頭の中でも検出できるのですが、これは光受容とは関係がないことがわかりました。何をしているのかはわかりません。「実はマウスも脳の中で光を受容していた」という新発見につながったらと少し期待していたのですけれどね。

2. 季節を読み取る時計のしくみをメダカから探る

ところでウズラの脳深部の光受容器は1日の昼の長さが一定以上になったら、「春ホルモンのスイッチをオン」と他の細胞に指令を出しているんですか?

吉村
実はその部分は未解明です。私は光受容細胞から情報を受け取った他の細胞が、季節を読み取る時計の役割をしていると予想していますが、時計となる細胞がどこにあるのか、どのようなしくみでホルモン分泌のオン・オフを切り替えているのかは謎です。
例えばウズラの場合、日長が11.5時間だと精巣は大きくなりませんが、12時間だと100倍もの大きさになります。この30分の違いを区別できるのがすごいところです。「臨界日長」と呼ばれるこのしくみの本質を知りたいと考えた時、ウズラの研究だけでは難しいと考えて今はメダカを研究しています。

なぜメダカなのでしょうか?

吉村
ひとつは基礎生物学研究所(基生研)でも研究室をもつことができるようになったことです。名古屋大学の農学部とトランスフォーマティブ生命分子研究所と合わせて、3研究室を主宰することができました。それぞれの場所の特色を生かして、協力しながら独自の研究に挑戦しています。基生研はメダカの遺伝資源を保存する拠点となっていて、メダカ研究の環境が整っているという利点があります。またウズラでは難しいゲノム編集が、メダカでは使えます。さらにメダカは日本各地に棲んでおり、緯度にして25度から40度くらいまでをカバーしています。

メダカ研究は日本独自の歴史がありますね。緯度が違うと日の入り時間も違うからその影響を見るということですか?

吉村
そうです。メダカは川に棲んでいて長距離を旅することはできません。地形の変化にともなって各地に広がり、その地域ごとに適応しているのです。まずは研究室メンバーとともに各地のメダカを採集し、さらにメダカコレクターの酒泉満先生からも系統をいただき各地のメダカをそろえることができました。

集めてみて実は地域ごとに日長応答に差がないという結果が出てがっかりする心配はなかったのでしょうか?

吉村
かなり昔の研究ですが東大の江上信雄先生が書かれた『メダカの生物学』に北と南のメダカで日長応答が違うということが書かれていたんです。しかしその後、この研究を展開した人がいなかったので、私たちは遺伝学的なアプローチから検証しようと考えました。
例えば、卵を完全に同じ環境で育てても、京都の舞鶴のメダカは日長が13時間だと卵巣が大きくならないけれど、沖縄の宜野座のメダカだと大きくなります。この二つの系統をかけ合わせたF1世代は卵巣が大きくなる臨界日長が13時間くらいになり、F2世代ではさらにバラツキが大きくなる。メンデルの遺伝法則にのっとっていることがわかります。どうやらひとつの遺伝子で決まるのではなく、複数の遺伝子で決まっているようです。ゲノムのどこに日長応答の違いが書き込まれているのか解析中です。

メダカでしくみが明らかになったら鳥類やほ乳類など脊椎動物の中での共通性が見えてくるといいですね。

吉村
そればかりは答えが出ないとわかりません。臨界日長は植物でも同じように、ある時間を境にスパッと切り替わります。植物でもこのしくみは未解明です。大きな目標としては生きものに普遍的な日の長さを測るしくみがみえるといいなと思っています。

3. 感覚も1年の中でダイナミックに変化する

前回の記事では小西正一先生(カリフォルニア工科大学教授)がなさったメンフクロウの聴覚の研究に出会い「生きものがそれぞれに持つ秀でた能力をよく観察し、それを上手く引き出すことの重要性を痛感した。」と教えていただきました。生きものの独自の能力に注目することと、そこから他の生きものとの共通性を知る、両方の眼差しを先生とお話していると感じます。

吉村
やっぱりウズラだけ、メダカだけという特定の生きものだけのしくみではつまらないじゃないですか。「そういう変わった生きものもいるのか」で終わってしまう。洗練された能力にスポットライトを当てることで、様々な生きものにつながる普遍的な現象を解明していきたいと常に思っています。
最近、メダカで行った研究では夏と冬で光感受性や色覚が大きく変化するということを突き止めました。季節によって色覚が変化するということは、ヒトでも言われていることなんです。

たしかに冬の世界はどんより見える気がしていました…私が寒いの苦手なせいかもしれませんが。このテーマはなぜ始められたのでしょうか?

吉村
私は農学部出身で、食料の増産や生きものの繁殖への関心が基本にあり、それを知りたくて四季を読み取るしくみや24時間周期のしくみの研究を一貫して続けてきました。ヒトの出生率も季節の影響を受けるって知っていますか?

えっ、ヒトは四季を通して出産できますよね。

吉村
スペインでの出生率の統計データによると、昔ははっきりとした季節のリズムがあったことがわかっています。ところが文明化が進んでからそのリズムが明瞭でなくなっている。1年中食料豊富でエアコンもある、季節の変化を感じない暮らしとなったため出生率の季節変化は顕著ではなくなりましたが、現在も少しは残っているんです。
動物の場合でも飼育している環境や栄養状態によって1年中子どもを産むか、特定の時期にだけ産むかが変化する場合があります。例えば北海道では特定の季節しか子を産まないヤギを、名古屋に連れてくると1年中子どもを産むようになったりするのです。
そのような生きものの繁殖と季節性、環境の変化について考えている中で、ヒトの行動や気分の季節変化のしくみを理解したいと思ったんです。そして、動物でも季節で気分が変わるのかもしれないと、メダカの行動をじっくり見ることにしました。そしたら夏と冬で行動が全然違うんです。いったいどうなっているんだろうと思ったのがスタートですね。

夏のほうが積極的なのでしょうか?

吉村
そうなんです。冬は水槽の底のほうでじっとしているけれど、夏は水槽の中全体を動きまわります。川の中では春から夏にかけてはほぼ毎日配偶行動をするようです。メダカは光をあてると逃げる「負の走光性」を示すのですが、研究室で確認すると冬はその能力が低く光の感受性も低下しているようでした。それを証明するために用いたのが、バーチャルメダカを使った婚姻色に対する誘引反応を見る実験です。

本物のメダカではなぜだめなのでしょうか?

吉村
本物のメダカを同じ水槽に入れて行動を見た場合、体色以外にフェロモンなどで誘引している可能性も否定できません。この実験では色覚の変化だけを定量化したかったので、バーチャルメダカを使いました。もともと基生研の渡辺英治先生がメダカの錯視の研究をなさっていました。メダカにどういう映像を見せたらメダカと勘違いするかを調べる実験です。そこで私たちの研究に協力していただきました。
水槽ごしにモニターを置き、婚姻色をもったバーチャルメダカを見せると夏のメダカは強く誘引されるのに、冬のメダカは誘引されません。遺伝子発現を確認すると色覚に関わる遺伝子の発現が冬は抑えられていて、夏は一気に上昇するのです。

バーチャルメダカを用いた行動観察の実験冬の条件下で(10時間明期、14時間暗期、8 °C)飼育したメダカと、の夏の条件下(14時間明期、10時間暗期、26 °C)で飼育したメダカを用いて、婚姻色をもつ異性への反応を観察した。
グラフはShimmura et al., (2017) Nature Communications 8, Article number: 412 より改変。

冬は寒いしじっとしているメダカに共感します。ヒトでの色覚の季節変化についてはどのような実験がされているんですか?

吉村
ヒトについての論文は、心理学の研究で特に黄色の見え方が季節によって違うと言っています。今私たちはほ乳類の色覚の季節変化を分子の視点から調べているところです。

4. 化学と生物学の視点を重ねて

名古屋大学のトランスフォーマティブ生命分子研究所では化学と生物学で協力しながら活動されているそうですね。異なる分野の専門家が集まっての活動はいかがですか?

吉村
前提としている知識が違いますし、最初は同じ日本語使っていても言葉が通じないこともありました。実験の進め方についても、化学は反応過程をコントロールして効率を最大限に高めることができるけれど、生きもの研究はそうはいきません。生きものの時間にこちらがあわせていかないといけませんから。

生きものたちが活発に活動しはじめるから、春は大忙しですね。

吉村
いやいや、実は今、季節性うつ病(冬季うつ病)の研究を進めているので忙しいのは冬なんです。メダカとヒトの培養細胞を使って、季節性うつ病の薬の開発を目標にした実験を進めているのです。私たちが注目しているのは体内時計の調節です。

体内時計とうつにどのような関係があるのでしょうか?

吉村
冬にうつになる人は起きる時間が変わってしまったりするので、うつが体内時計と密接に関わっていると以前から言われていたのです。
私たちが今、取り組んでいるのは既存の薬から新たな効力を見つけ出す手法です。ヒトの培養細胞で24時間のリズムの変化を観察し続ける実験ではロボットが活躍しています。384個穴があいたプレートに薬と細胞をいれての自動計測をやってくれます。この手法でアメリカのスーパーマーケットで売られている若返りのサプリメントに体内時計を早回しする効果を見出しました。
実はうつの患者さんは光感受性が低下しているという研究結果も出ています。これは光感受性と社会性が低い冬のメダカの表現型とも似ていると思うので、メダカの行動実験を用いた薬のスクリーニングをしています。

メダカの行動との共通点を聞くと、冬に社会性が落ちることはある意味で自然なことのようにも思えてきますが。

吉村
うつ病は適応現象のひとつと考えることもできます。環境が悪いと外に出ていかないほうがいいわけですから。特に冬は自然界には食べものがあまりない時期で、多くの生きものは活動状態を下げて春に備えています。研究者の中には「季節性うつ病は季節繁殖など季節性の名残じゃないか」と考えている人もいます。また住んでいる緯度によって季節性うつ病の発症リスクが変わります、アメリカの南部のフロリダだと1〜3%ぐらいですが北部のボストンへ行くと10%程度になるのです。

先ほど伺った、季節性と緯度のお話とも重なりますね。1年中同じ活動量ではたらくことを当たり前と思っていましたが、そもそも生きものとしてはそんなこと当たり前じゃないのですね。

吉村
そうですね、季節によって行動を変えるしくみがからだに備わっていますから。そのうえで日常生活に困難が生じた場合、どう改善するか、研究者として向き合いたい。薬の開発はその一つの手段だと思います。体内時計の調節はうつに限らず、様々な疾患と関係していて、体内時計が乱れるとがんや心疾患になりやすいとも言われているんです。乱れた体内時計を調節したり、止まっている時計をまわすことができる薬の開発がうまくいけば複数の疾患を一気に解決できる可能性もあります。

5. 雄鶏がコケッコーッコーと鳴くワケ

様々な生きものの時間からヒトも含めた共通性が見えてきていることを研究の展開から実感します。名古屋大学の農学部では今どのような生きもので研究されているのでしょうか。

吉村
いろいろいますよ。エビ、ハムスター、ゼブラフィッシュ、マウス、ウズラ、ニワトリ。やっぱり農学部のいいところは多様な生きものが飼えるところです。理学部や医学部の環境では病原性微生物がいないマウスを飼育したりする必要があり飼育できる種が限られます。例えば、鳥は手がないから、すごく食い散らかすんですよね。部屋中がもうほこりっぽくなってしまうので農学部でないと無理です。また名古屋大学農学部はニワトリとウズラの遺伝資源保存の拠点なので、世界でここにしかいない系統がいます。今、私が解決したいと思っている問いのひとつが「なぜ動物はそれぞれ特異的な鳴き方をするのか」です。例えばキンカチョウ(註1)註1:キンカチョウスズメ目のソングバード。孵化後約20日から成鳥の歌を聞き覚え(感覚学習)、約30日ころから自らさえずって歌を練習する(感覚運動学習)。

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って知っていますか?

さえずりのモデルで使われている鳥ですよね。

吉村
そうです。キンカチョウの歌や人間の言葉は、学習しないと発することができません。しかし、ワンワン、モー、ニャー、コケコッコーなどは練習しなくても大人になると鳴ける。先天的発声と呼ばれていて、遺伝子に書き込まれているものです。これを聞いてください。

ニワトリ「コケコッコー」

吉村
普通のニワトリです。次にお聞かせするのが沖縄県の天然記念物の品種チャーンです。

チャーン「ケッケレイエーエーケッ」

粋な鳴き声ですね。

吉村
愛好家がいて品種改良されたものです。チャーンとニワトリを掛け合わせるとF1世代は新しいタイプになります。遺伝子の中にコケコッコーという鳴き方の情報が書き込まれているわけで、それを見つけるための実験を進めています。染色体のどこに遺伝子があるか、をかけ合わせ実験で解析するためには200羽ほどの表現型を確認する必要があり、1羽ずつ静かな部屋を用意しました。ところが静かな部屋に置くとね、全然鳴かないんですよ(笑)。どうやったら鳴いてくれるか調べているうちに新しい研究テーマがうまれました。「本当にニワトリは朝になると鳴くのか」。驚いたことにそれまで誰も論文にしてなかったんです。ニワトリって日の出と共に鳴くと思っていませんか?

思っています。「朝がきたよー」って合図かなと。

吉村
部屋を真っ暗闇にして観察すると、毎日自分の体内時計で勝手に鳴くことがわかりました。「コケコッコー」が体内時計に制御されていることの世界で初めての証明です。

体内時計できっちり制御されているのに、ひとりぼっちになると鳴かないんですね。

吉村
実はあの鳴き声は縄張りの主張です。周りに誰もいないと縄張りを主張する必要がないので静かになるんです。しかも4羽並べて鳴かせていたら、毎日同じ個体から順番に鳴くのです。ニワトリにはつつきの順位があって、一番強いものから順に鳴くんです。みんな起きているのに。

空気を読まないといけないんですか、厳しいですね。ところでコケコッコー遺伝子は喉の構造などに関わっているのでしょうか?

吉村
声質はそうかもしれませんが、鳴き声のパターンは脳で制御されていると考えています。候補の遺伝子はもう見つかっていて、もしかしてヒトの言葉の学習にも、その遺伝子が関わっていたら面白いなと考えています。論文にするまでにはもう少し時間がかかりそうです。

コケコッコー遺伝子の発表、楽しみにしています。今日お話うかがっていて、研究室それぞれの場所の強みをいかして独自の研究をされている具体がよくわかりました。いろいろなお話を聞けてすごいわくわくしましたけれど、先生はたくさんの研究を並行していて混乱しないんですか?

吉村
私は子どものとき、動物園で働くのが夢だったんですよ。だから、夢がかなった気持ちです。新しい生きものを飼うときには本当にわくわくしますし、毎日楽しいですよ。やっぱり科学って、遊び心が大事だと思っています。他の人がやらないことをやらないと。「生きものすごい!」という気持ちはいずれの研究にも共通しています。

これからの展開が楽しみで元気が出ました。基礎、応用と分けて考えるのではなく、生きもののしくみそのものと、私たちの日常を知る研究が地続きで展開していくのだと実感します。生きものはわからないことだらけで、生命誌もまだまだやることたくさんです。私たちも探求を続けます。

吉村 崇(よしむら・たかし)

1996年名古屋大学大学院農学研究科博士課程中退。博士(農学)。名古屋大学大学院生命農学研究科助手、同助教授、同准教授を経て2008年より同教授。2013年より同大学トランスフォーマティブ生命分子研究所教授、自然科学研究機構基礎生物学研究所客員教授(-2019年3月)。

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