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Lecture

生き物さまざまな表現

生物フリークのひとりごと:大岡 玲(作家)

今でこそ文章を書いて暮らしているが、何を隠そう私はごく幼い時分から生物フリークである。なにしろ、生まれて初めて書店に行った三歳の時、万引きしかけて母親があわてた本だが、魚類図鑑と動物図鑑だったのだ。

外を自由に走り回れる年齢になると、この傾向はさらに強まった。当時私は、東京の郊外 -今ではそうは言わないらしいが- 地域にあたる三鷹に住んでいた。まだ武蔵野のおもかげを残していたこの辺り一帯を、学校から帰るとすぐさまカバンを放り出して徘徊し、ヘビ、カエル、トカゲといった爬虫類や両生類、あるいは、ザリガニ、タガメ、ゲンゴロウ、フナ、コイ等々の水に棲む生き物たちに、濃密な情熱的関係を迫っていたのだった。追いかけ回されたり、捕まえられたりで、彼らもさぞや迷惑に思ったことだろう。

(撮影 = 三好和義)

こうして実地に生物に触れたり、科学博物館に月に一度は通ったり、読売ランドの大クジラ展で、彼らの牡が所有するピンク色の巨大なペニスの標本に感動し、絵日記に紙を足してまで描いたりし、また一方でドリトル先生やファーブル昆虫記を読みふけったり、といった日を送るうちに、生物学者になりたいという欲求が生まれたのである。

高校生になるまでは、そんな甘い夢も見られた。 しかし、あの悪魔のごとき数学が、哀れな私の行く手を阻んだのである。おまけに、私には生物の試験にメンデルの法則が出されると、計算間違いをして変てこな遺伝子発現率をはじき出す悪癖まであったのだ。

こうしてやむなく、私はドリトル先生になるのをあきらめ、ドリトル先生を書く側に回ったのである。しかし、天は哀れな挫折者を見捨てず、BRHサロンという場を与えてくださった。このサロンに、できるかぎり参加して、生物学の孕む様々な可能性、そしてまた可能性に潜む警戒しなければならない点などに、知識を深めていきたいと考えている。


※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。
 

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