1. トップ
  2. 季刊「生命誌」
  3. 季刊「生命誌」17号
  4. BRHサロン ヒトの隣人

BRHサロン

ヒトの隣人

山極寿一

現在、人間にもっとも近い動物はアフリカの類人猿といわれている。たしかに、ゴリラもチンパンジーもそれぞれ人間によく似ているところがある。しかし、いざ2つの種を比べてみると彼らの間にある類似よりむしろ相違に目が向くことが多い。もの静かで慎重ながら頑固なゴリラ。陽気で騒がしく好奇心旺盛なチンパンジー。なぜ、こんなに対照的な特徴が生み出されたのか。

コンゴの森で。

私は今、両種の類人猿が共存している場所で観察を続けているが、同じ環境にすみながら、ゴリラとチンパンジーが認識している世界の相違に目を見張らされることがしばしばある。湿原に繁茂する水分をたっぷり含んだカヤツリグサにゴリラは旺盛な食欲を覚え、ハチの羽音を耳にしたチンパンジーは舌なめずりをしながら蜂蜜のありかを探そうとする。まわりにあるものは同じでも、食物として見えているものは違うし、同じような社会状況でも対処の仕方がまるで違う。

これらの違いは、過去に両種が密接な関わりをもつことによって生まれた可能性がある。おそらく、いったん別々の道を歩き始めたゴリラとチンパンジーの祖先が、のちに再び共存するようになって、それぞれの違いが際だつように進化したのだろう。

この図式は初期人類の進化にもあてはまる。ゴリラとチンパンジーで異なる特徴は、彼らと人間との間でも大きく異なっているからである。彼らの祖先と関わり合ったこと、そして、かつて複数種の人類が共存したことが、当時の人類のいくつかの特徴を飛躍的に発展させたに違いない。

現代の人間にも、ゴリラやチンパンジーに似た特徴がモザイクのように組み合わされている。どちらに、と言われれば、私は躊躇なくゴリラを選ぶ。一枚岩の心をもつゴリラは、私にゆるぎない信頼感を与えてくれるからである。

(やまぎわ・じゅいち/京都大学霊長類研究所・助手)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

季刊「生命誌」をもっとみる

オンライン開催 催しのご案内

その他

4/5(金)まで

桜の通り抜け(JT医薬総合研究所 桜並木) 3/26〜4/5