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Special Story

DNAでみた鳥の世界—分類から文化史まで

モズは本当に一夫一妻?
— DNAから鳥の繁殖生態を探る:西海功

ほとんどの哺乳類で雄が子育てを手伝わないのとは対照的に、鳥類ではスズメやツバメなど身近な鳥を含めてその多くで、つがいが協力して子育てを行ない、一夫一妻で繁殖する。そのため、オシドリが仲睦まじい夫婦の象徴とされるなど、鳥類のつがいの絆は非常に強いと一般に信じられてきた。

しかしながら、実際には巣の中の雛がどの親の子かを調べるのは非常に難しく、つがいの絆の強さが本物かどうかは、今から10年ほど前まではよくわかっていなかった。そこへ登場したのがDNAによる親子判定の技術だ。人間でも鳥でも、ゲノムDNAの中には同じ種の中でも個体ごとに違う部分がある。そのような部分での雛のDNAのパターンは父親と母親のパターンを半分ずつ示す。母親タイプをもちながら、父親タイプをもたない雛がいると、それは他の雄と母親との子であろうと判断できるのである(フィンガープリント解析という)。こうして、つがい以外の雄との子が意外に多く生まれていることが次第に明らかになりつつある。

私自身が調べた例では、非常に強固に一夫一妻を守っているモズでも、10%の雛がつがい外の子であることがわかった。つがい外の雛の割合は種や個体群によって違いはあるが、多くの鳥類で数%から30%程度になる。このように婚外受精が広く見られることから、一夫一妻は絆の強固さを示すのではなく、逆に夫一妻制が婚外受精を生み出す原因になっていると考えられ始めている。

つまり、雌は質のよいなわばりと質のよい遺伝子を併せもつ雄とつがうのがもっとも良いが、一夫一妻という社会的制約のために優れた雄とつがうことができるのはごく少数の雌に限られる。その結果、競争に負けた多くの雌は妥協策として次善の雄とつがい、その雄に子育てを手伝わせる一方、婚外交尾でよりよい雄の精子をもらうという戦略をとるのかもしれない。最近は、このような雌による受精相手のコントロールや、さらには婚外受精がもたらす兄弟間の血縁度の低下が兄弟問競争に与える影響などが関心を集めている。

親子判定のほかに、近年では雛の性判定にもDNA分析が利用されている。たとえば、一夫多妻で繁殖するオオヨシキリでは、巣内の雛の性が雌に偏っている場合よりも雄に偏っている場合のほうが、父親はより頻繁に雛への給餌を行なうことがわかった。これは、一夫多妻の動物では、十分な栄養状態で育った優れた息子は将来多くの雌を獲得し、多くの孫を残すので、娘よりも息子に多く投資する行動が進化しやすいという仮説とよく一致する。このように、分子生物学の手法は鳥類の生態研究にも積極的に導入され、新しい切り口を提供している。

(にしうみ・いさお/国立科学博物館動物研究部研究員)

DNAフィンガープリント法による親子判定

DNAを調べることで、雛が特定の雄と雌の子供かどうかを判定することができるようになった。左側の2つが親と考えられる雄と雌で、そこから生まれたと考えられる雛(A)は、両親のもつバンドをほぼ半分ずつ受け取っている。一方、BとCの雛には、両親にないバンド(矢印の部分)があり、他の雄の子であると考えられる。 (Yamagishi, S., I. Nishiumi & C. Shimoda. The Auk, vol. 109, p.715より)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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