線と面、さらに空間の中で三次元の形となり、リズミカルにゆらぐ一本の糸。
それは、糸という素材に魅せられた造形作家の生命感覚の軌跡。


①Wing2(金沢市民芸術村)350×200×250cm ②Orbit-Y3(金沢市民芸術村)450×450×250cm ③White Boatl8(金沢市民芸術村)1500×250×800cm ④⑤Orbit2(東京・スパイラルホール)300×300×250cm ⑥Orbit-Y3(Detail)
450×450×250cm
⑦White Arc(Detail)
1000×400×250cm
⑧White Arc(Detail)
1000×400×250cm
⑨On the Wind(Detail)
350×200×250cm

雨上がりの縁側でクモが巣を作るのを見続けた幼い頃を、今も鮮明に記憶しています。クモはゆらゆらと光や風を取り込みながら、思いのほか素早く旋回運動を繰り返す。その本能的に行なわれる獲物獲得のための巣づくりは、何とも巧妙で、計算されたかのように美しい幾何学模様を作り上げます。この自然の中の造形の美しさは、私の創作活動において、ひたすら自己の感覚を醱酵すべき方向を指し示しています。

私が従来の染織工芸の枠をはずれて、自由で新しい繊維による創作に取り組み始めた1970年当時は、糸を素材にして立体作品を作ろうなどという試みはほとんどありませんでした。糸は多様すぎるほどの変貌能力をもち、どこか情念めいた意味ありげな様相をしています。他の素材にはない生々しい感触をもつがゆえに多くの思惑をいだかせます。線を面にしたり、あるいは彩色することによって、まったく違ったものに変貌する糸。まっすぐ張れば直線となり、少しゆるめれば曲線になる。私の抱いているイメージの実体的予感と、これを表現しようとする内在力が、豊かに醱酵していくだけの要素を十分にそなえている。それが私を強く惹きつけたのでした。

私は一本の糸がいちばん自然で美しい状態になるように作っていきます。それは素材のもつ“素”の部分との対話です。軸線の上に等間隔に糸を旋回させていくと、幾つもの重なり合う円弧がリズミカルな動きを生み、線から面へ移行するプロセスで、私の中の生命感覚が、糸のもつエネルギーとひとつになっていきます。それを空間に解き放った時、糸はわずかな空気の動きにも敏感に反応して表情豊かな流れを生み、空間に関わりあう意味を明確にしていくのです。

(はまたに・あきお/ファイバー・アーティスト)