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Special Story

藻の眼から細胞内共生へ

藻の眼から細胞内共生へ:堀口健雄

私たち人間を含む多細胞生物を産み出した真核細胞の誕生は、生命誌の中で、もっとも大きなできごとのひとつだった。十数億年前に起きたそのことを教えてくれる現存生物。
――今、藻がとても面白い

藻にも眼があるといったら驚かれるだろうか。中学生の頃、顕微鏡で見たミドリムシに眼点という構造体があったのを覚えている方もあると思う。鞭毛のある藻の多くは光を受容する部位 とその付近に眼点を持っている。眼点は光を反射したり遮蔽したりする役割をしているらしいが、なかには私たちの眼に近い構造を持つものもいる。なかでも渦鞭毛藻の仲間にはいろいろな眼点を持つものがあり、進化という観点からも興味深い。

まず、いろいろな眼点を見て欲しい(図1)

いろいろな渦鞭毛藻の眼点

A:細胞質に赤い色素を含んだ脂質顆粒が並んでいるもっとも簡単なタイプ。
B:脂質顆粒が三重膜に囲まれている。
C:脂質顆粒が葉緑体の中に並んでいる。
D:多重構造がパラボラアンテナのように光を反射する。
E:レンズで光を網膜上に結ばせる、まさに"目"

Aはそういう顆粒もまあできるだろうと考えられる。BはCの葉緑体部分が退化したものと考えるとわかりやすい。Cは他の藻類にも見られるタイプで眼点の基本形ともいえるものである。しかし、DやE になると、なぜこんなものが単細胞にあり、どうやってできたのかと不思議な気持ちになる。実はDのタイプはわれわれが発見したのだが、そのでき方を見たところ、葉緑体との関係がわかった。眼点の主要な構成要素である結晶体は葉緑体由来の小胞で作られ、眼点のつくられるところまで運ばれて、そこで組み立てられるのだ。こんな構造がなぜできるのかわからないし、Eについてはますますわからないことだらけだが、葉緑体との関連で眼点を見ていく必要はありそうだ。

ここで葉緑体そのものに眼を向けよう。じつは渦鞭毛藻は眼点のみならず、葉緑体そのものも多様であることがわかっている。それは、渦鞭毛藻の葉緑体は他の藻類を取り込むことで獲得されたからだとされているからだ。じつは取り込まれた藻類はすでに眼点を持っているので、渦鞭毛藻の眼点はこのとき持ち込まれた可能性が高いわけだ。つまり、渦鞭毛藻はさまざまな藻類を取り込んだために多様な葉緑体と眼点を持っていると考えることができる。したがって眼点の構造の問題は、本来それを持っていた藻の葉緑体との関連で考えなければいけない。

そして進化の観点では、眼点についての情報を考慮すると、渦鞭毛藻の形成の際の細胞内共生がより正確にわかる。たとえば、眼点はあるけれど葉緑体はないという仲間は、おそらく一度取り込まれた葉緑体の消失を示すのだろう。また、珪藻(けいそう)を取り込んだと思われる種だけがBの眼点を持つこともわかっている。
 このように葉緑体と眼点の情報を組み合わせることにより、渦鞭毛藻での細胞内共生の様子がはっきりとわかってくる。これは細胞の進化という大きなテーマにとって大事な情報である。

渦鞭毛藻Gymnodinium natalenseはDタイプの眼点をもつ。

①電子顕微鏡写真。半円形の眼点(矢印)が見える。
②眼点部分を拡大したもの。
③矢印は眼点のあるところ。

渦鞭毛藻Peridinium quinquecorneは珪藻由来の細胞内共生体をもち、眼点はBタイプ。

⑤眼点部分を拡大したもの。
⑥矢印のところに眼点がある。(写真=堀口健雄)

(ほりぐち・たけお/北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻助教授 )

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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