海岸で海藻をスケッチ。

「職業は?」と聞かれて「サイエンスイラストレーター」と答えると必ず、具体的には何をするのですかと聞かれる。「図鑑や科学雑誌、博物館の展示の説明のために、動物、植物、細胞などの絵を科学的に正しく描くのが仕事です」と答えることにしている(生物学専攻なので)。

こんな職業があることを知ったのは、3年半前、東京大学大学院に在学中、ある新聞記事に出会った時だった。それはサイエンスイラストレーターで、当時日本で唯一のGuild of Natural Science Illustrators(スミソニアン博物館に本部をもつ自然科学専門のイラストレーターのギルド)の会員であった木村政司さんを取り上げたものだった。生物学の道に入りながらも昔から絵を描くのが好きで、趣味だけでは終わらせたくないと思っていた私には、天の啓示、これぞ天職!という直感が走った。その後木村さんにお会いし、ギルドのメンバーになり、カリフオルニア大学サンタクルーズ校の1年間の専門大学院コースに入学したのが2年前のことである。ここでコンピュータグラフィック、動植物を正確に描く方法などを次から次へと叩き込まれた。卒業後はインターンとしてニューヨークの自然誌博物館で化石の絵や雑誌のイラストを描き、現在はカリフォルニアのモントレーで生物学テキスト用CD-ROMのためのイラストを描いている。

この仕事をしていると本当に思いがけないものに出会う。雑誌で象の鼻の構造を説明する仕事をした時には、本物の象の鼻の輪切りが送られてきた。その他にもナマケモノの毛皮、世界でたった一つしかない、カメの化石にもお目にかかった。毎日が発見の連続である。まだ走り出したばかりだが、科学的に正確で、理解しやすく、かつ美しいイラストレーションを描こうと日々努力している。私のイラストを通して、生き物ってこんなにすごいんだと思ってもらえたらこのうえない幸せだ。

日本にはまだ、サイエンスイラストレーターの活躍する場は多くないが、生命誌研究館はその意味で、先駆的な役割を果たしていると思う。私もこの場で研究者と深く関わりながら素晴らしい仕事をしたいと願っている。

(きくたに・うたこ/サイエンスイラストレーター)