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Column

中村桂子のアート&サイエンス
ダンスと生命誌

昨年初め、上田美佐子さんから電話がかかってきた。彼女は東京・両国にある小劇場シアターX(カイ)のプロデューサーである。8月に第3回インターナショナルダンスフェスティバルを開くのだが、今年は単なる踊りのコンクールでなく新しい表現をしてみたい。このアイディアは、「音楽に聴く生命誌」(97年10月・於京都コンサートホール、『生命誌』19号参照)で得たものなので、参加するように、という話だ。

ダンスなんて…なんてという言い方はないが、とにかく、時々バレエを観るくらいでそれ以外はあまりなじみがない。けれども“新しい表現”という言葉に惹かれ、また日常の上田さんの活動に共感を覚えていたのでとにかく仲間入りすることにした。

アイディアとは、考える人8人、踊る人8人。2人ずつ組んで何かを創り出すということ、教えられたことはこれだけだ。考える人の仲間には、作曲家の三宅榛名、国際サーカス村村長西田敬一、建築家の林昭男、歌舞伎研究家の郡司正勝(企画途中で惜しくも逝去された)ら魅力的な名が並ぶ。踊る人としては、大野慶人、折田克子ら日本人のほかにカナダ、韓国、ドイツなどの一流ダンサーが顔を揃えている。私のお相手は山海塾に属し、ソロ活動では即興の可能性を追求している岩下徹と指定された。

私が伝えたいことをダンスにつなげるには、まず言葉で端的に表現しなければならない。そこで生きものの基本を「続く、試みる、絶える、やはり続く」註)とした。これが生きものの特徴につながっている。DNAは、同じものを続けながら変ったものを産み出すのに最適な構造をもっている。岩下さんが谷川俊太郎さんと組んだ公演を見たり、BRHに来ていただいて生命誌とは何かを話したり、音響の相談をしたり。お互いが刺激し合うこの過程が一番楽しかった。

「今、このままの地球でいいとは、このままの社会でいいとは、このままの人間でいいとは考えていないでしょう。現実を直視した芸術を創出しましょう」。公演直前に上田さんから渡されたメッセージだ。幸い、私が生命誌に託し、その表現法を毎日若い仲間と模索しているテーマと重なっている。通常私たちは、言葉や映像を用いるが、もしかしたら身体をそのまま使うダンスは生命誌にとって適した表現かもしれない。上田さん、岩下さんとの付き合いの中でそんな気分になったところで公演の日が来た。

岩下さんは「続く、試みる…」そのものになっていた。他のペアから多くを学んだ。考えるべきことを人々に伝え、生命誌として大事な成果を得られたと思う。岩下徹というダンサーに何かを残したことも確かだ。それだけじゃなく他の人にも。科学と芸術を並列で考えるのでなく、一体となった何かを求めたいという気持ちがさらに強まった。
(なかむら・けいこ/JT生命誌研究館副館長)

註)これをもう少し説明したものがBRHのホームページ(ちょっと一言)に載っています。ご覧下さい。

そして生命は…
 続く
  この世に生まれた最初の生命体は
  ふえて続いていった
  星や水や大気が拍手喝采
  おみごと!そりゃあ君だけの特技だ

 試みる
  同じものばかりふえてもつまらない
  ちょっと変わったものになってみるか
  たくさんの毛を生やし
  くるくるまわるゾウリムシ
  二つが一つになったら楽しかろうな
  そっちはオス、こっちはメス

  アメンボウが泳ぎ出しフクロウが鳴き始める
  人間なんていうおかしな奴まで出てきた

 絶える
  世の中甘くはない
  のんびり木の葉を食べていたら
  空から隕石が降ってきて
  あっという間に絶滅してしまった仲間

  いや何にも落ちて来なくても
  性の楽しみの裏には死が潜んでいた

  いや性だけじゃない
  脳というのがくせ者で…

 やはり続く
  あいつが絶滅しようが
  こいつが脳にふり回されて消えようが
  やはり試み、続いていく

             そして生命は…


※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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