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バイオリンを生みだす

岩井孝夫

高槻にあるバイオリン工房一クレモナ。バイオリンは年月とともに音色が変わってゆく生き物のような不思議な楽器。良いバイオリンはとうやって生まれるのだろう。


バイオリンはピアノと並んでもっともなじみ深い楽器だが、大量生産ラインで作られるものは別にして、精魂込めて作る手作りのものは、安くても数百万、なかには数億円のものもある。あるバイオリニストが念願の楽器のために自宅を手放したのは有名な話だ。

じつは、手作りのバイオリンは基本となる材料や寸法に違いはない。たとえば、表板は、膨らみの高さ15.0±1.0mm、中心の厚さ3.0±0.5mmと決まっている。裏板も膨らみの高さは表と同じ。中心厚は4.5±0.5mmだ。もちろん、この±1.0mmや±0.5mmも音に影響はあるだろうが、そんな単純なことならストラディバリやガルネリが作られた後の250年間に、それと似た、いやそれを超える名器がたくさんあってもいいはずだ。

バイオリンは、板の厚みや膨らみだけでなくf孔のデザイン、その位置、横板の高さと厚み、ネックの仕込み角度、ニスの種類、材料であるモミの木の年輪、密度などなど、いやになるほどたくさんのことが総合されて音につながっている。しかもそれが弾かれ、常によい振動を与えられると、少しずつより良い音になるらしいのだ。だから100年、200年と名手によって弾き込まれたものにはかなわないことになる。この楽器は完成した時が誕生であり、その後の使われ方で変化する。どんどん良くもなるし、悪くもなる。だから、新品よりも中古が良いことが少なくない楽器なのだ。

作り方はわかっている。しかし、どうすれば良い音の出るバイオリンができるのかはわからない。

●材料

表板=モミ(アベーテ ロッソ)
裏板・ネック。横板=バルカンカエデ

たとえば、イタリアのものはイタリアで作られたというだけで価値があるが、それは、そこで作られたから良い音になる確率が高いだろうという暖昧なものである。確かに、バイオリンを発明し、500年間作り続けているイタリア人のエネルギーはヨーロッパの中でも群を抜いているし、表板となるモミの木もイタリア産のものが一番適しているけれど。

ここ高槻で我々はバイオリンを作っている。イタリアの材料を使って。イタリアのバイオリンと、我々のバイオリンに何の違いがあるのだろうと考えながら。とにかく、バイオリンには、遠い未来に花開くかもしれない作り手の個性や微妙な技術の違いが要求されている。100年、200年後には日本でも名器が生まれるかも……とにかく気の長い話だ。

●材料

指仮=黒檀
ペグ・糸巻・テールピース・ボタン=黒檀・ツゲ・ローズウッド他
魂柱・力木=モミ(アベーテ ロッソ)
ブロック・ライニング=モミ・ヤナギ

ニスの原料。何種類かを天秤で量って混ぜ、色を決める。

バイオリンの修理道具。
(写真=外賀嘉起)

岩井孝夫(いわい・たかお)

1954年生まれ。81年からイタリアのクレモナでバイオリン製作の修業をする。92年帰国し、鈴木郁子氏とバイオリン工房クレモナを主宰。現在、バイオリンを製作しながら、生徒の指導もしている。

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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