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2026.03 発行

 

PERSPECTIVE

生命誌でたどる進化とそのしくみ

JT生命誌研究館
表現を通して生きものを考えるセクター  監修 高畑尚之

1.生命誌でたどる進化

わたしと、わたしの周りの全ての生きもののはじまりは、およそ40億年前。長大な時間をかけ、一つの細胞から生きものは変化を重ね、現在に至る。JT生命誌研究館に展示されている絵画「生命誌絵巻」は、生きもののつながりとひろがりを描いている。一つの細胞が描かれている扇の要が約40億年前、黄色の上の端が現代だ。いま同じ時代を共有する生きものたちは、すべて共通祖先から同じ長さの時間を辿り、共に生きてきたのだ。
「地球の歴史は地層に、生物の歴史は染色体に記されてある」とは、日本の遺伝学者である木原均の言葉である。染色体を解くと、DNAが現れる。現在の地球上の生きもの共通祖先LUCA(Last Universal Common Ancestor:最後の普遍的な共通祖先)は、DNAをもっていたと考えられている。
 

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細胞の中のDNAは、その生きものが生きるための設計図と言える。設計図どおりに、生きものはできてゆく。DNAは、リン・糖・塩基が一つのセットとなり、二重らせんのかたちに並び成り立つ。塩基は4種類で、アデニン(Adenine)はA、チミン(Thymine)はT、グアニン(Guanine)はG、シトシン(Cytosine)はCと表記し、AにはT、GにはCが対になり、向き合っている。ヒトの場合、このたった4文字がおよそ30億個対になって並び、塩基の並び順が情報となっている。細胞中の全てのDNAの情報を「ゲノム」という。



 

写真1:DNAのかたち(JT生命誌研究館 常設展示『あなたの中のDNA展』より)

写真2:DNAの4つの塩基(JT生命誌研究館 常設展示『あなたの中のDNA展』より)

2.「変異」ゲノム情報が書き換わる

わたしたちは、40億年前に今と同じ姿形で存在してはいなかった。わたしたちが今、この姿形で生きているのは、DNAに記された情報が幾度にもわたり変化してきたためである。なぜ、どのようなしくみで変化するのか。DNAは自らを複製し、同じものを作り出す性質を持っている。しかし、複製は完璧ではなく、一部が間違った塩基に置き換わったり、逆転したり、別の場所に移動するなどのエラーがまれに生じる。また、紫外線や放射線、ウイルス感染など、体の内外からの影響により破損したDNAが、自らを修復をする際にもエラーが生じる。この複製エラーや修復エラーにより生じる塩基の変化を「変異」という。突然変異ということもあるが、どのような変異も突然起こっていると言えるので、ここでは変異と呼ぶことにする。

写真3:DNAの損傷と修復(JT生命誌研究館 常設展示『あなたの中のDNA展』より)

ゲノムに記されている情報から、細胞の中でタンパク質が作られる。タンパク質は生きもののからだの最小単位である細胞を作り機能させる基本の分子で、ヒトは2万種類以上のタンパク質を時と場所に応じて作り、“生きている”という状態を作り出している。ゲノムの中でタンパク質を作るための情報が書かれている領域が「遺伝子」だ(遺伝子の定義についてはさまざまな考え方があるため、ここではタンパク質を作り出す情報がある領域とする)。遺伝子領域に変異が起こると、タンパク質を作るための設計図が書き換えられ、タンパク質が変化したり、作ることができなくなる。これが生きものの体や機能の変化につながっていく。遺伝子領域は全体の数%で、それ以外は非遺伝子領域となる。

生きものの姿形、機能など、観察可能なものを「表現型」と言う。世代を経て起こる表現型の変化は、基本的にゲノムの変異に由来する。生殖細胞に起こった変異が、ゲノムを通じて次世代の個体で現れるのだ。生殖に関わらない体細胞のゲノムの変化は、次世代へは伝わらない。変異は、表現型に現れないゲノムの領域にも等しく起こる。変異は生きものにとって有益にも有害にもなり、そのどちらでもない場合もある。

(図1)DNAに起こる変異

DNAの塩基が変化することを変異といい、箇所はランダムに生じる。生きものが生きていく上で有益な変異、有害な変異のほか、有益でも有害でもない変異がある。生殖細胞のDNAに生じた変異は次世代へ伝わる。すべての変異が目に見える形として現れるわけではない。

非遺伝子領域では、タンパク質を作る働きに間接的に関わる領域、何をしているのかわからない領域、何もしていないと考えられている領域などがある。非遺伝子領域に変異が起こることで、遺伝子領域と同じように表現型に変化をもたらしたり、新たな機能を獲得したりといった可能性もあるものの、ほとんどは生存率や繁殖力には影響しない、つまり自然選択に関して中立な変異となる。ヒトの場合、1世代につきゲノム上におよそ70箇所の変異が生じるという研究報告がある。個体のゲノムに生じる変異の大部分が中立か有害であり、有益な変異が起こる可能性はほんのわずかとされる。

ヒトなど有性生殖の生きものは、生殖細胞は親から受け継いだ2セットあるゲノムを1セットにする「減数分裂」を行う際、両親から受け継いだ染色体を混ぜ合わせ、オリジナルの染色体を作り出す。これを「組換え」と言い、新たな設計図を作り出し、次世代に繋げている。この減数分裂の際にも、ゲノムに変異が生じる。

写真4:組換えと減数分裂(JT生命誌研究館 常設展示『「生きている」を見つめ、「生きる」を考えるゲノム展』より)

「変異」は個体のゲノムに起こることであり、それが集団に広がり「進化」へとつながっていくかどうかはこの時点ではわからない。個体に生じた「変異」の運命はこの後、自然選択や偶然の力に翻弄されることとなる。
 

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COLUM

ゲノム重複

ゲノムが何らかの理由で丸ごと倍になったり、同じ遺伝子が複数に増えたりといった、ゲノムそのものが量的に増える現象も、長い歴史の中で生きものを変化させてきた大きな要因の一つだ。ゲノム重複が起こるのは何億年に何回という頻度で、生きものによって頻度は異なる。同じ遺伝子が複数できることで、これまでの機能を維持しながら、余分に生じた部分で変化を作り出すことができ、新しい機能をもつ遺伝子の獲得につながるのである。

3.「自然選択」表現型に現れる変異をふるいにかける力

進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンは、ガラパゴス諸島のそれぞれの島に住むフィンチのクチバシの形に違いを見出した。現代の研究では、ガラパゴス諸島のフィンチは17種に分かれている。

(図2) 3種のガラパゴスフィンチのクチバシの比較

上から、コガラパゴスフィンチ(体長11cm/体重12g)、ガラパゴスフィンチ(体長12.5cm/体重20g)、オオガラパゴスフィンチ(体長15-16cm/体重35g)ペーパークラフト ガラパゴスフィンチ
https://www.brh.co.jp/publication/cards/papercraft/012/

ガラパゴスフィンチは、食べ物によりクチバシの形状が多様に変化したと考えられている。例えば大きな木の実が多く実る時には、嘴の小さな個体は嘴の大きな個体に比べ不利になり、大きな嘴を持った個体の方が生き残りやすくなる。小さな嘴の個体は数を減らし、集団の中で大きな嘴をもった個体の数が圧倒する。この場合、大きな木の実が実る環境に、フィンチ側が選択されているのだ。食べ物だけでなく、気温や降水量などといった気象条件、外敵、生きることに関わる多くの要素が、個体の生存や繁殖を左右する要因となり得る。そのような環境との相互作用で、生きものは数を増やしたり減らしたりする。

DNA上の塩基に起こる変化は偶然だが、自然選択はその状況ごとに理由がある。偶然に獲得した形質や機能が、秩序をもって選択され、集団中の割合を変えていくのだ。ただし、自然選択は表現型に現れる変異に対して働く力であり、表現型に現れない変異は自然選択にかかることはない。

4.確率、偶然の力

個体に生じた変異が次世代に伝わり集団内に広がるには、「偶然」という現象が前に立ちはだかる。自然選択にかかることのない中立的な変異は、偶然の力により集団中での割合を増加・減少させていく。この時、その運命に大きな影響を与えるのが集団のサイズだ。これは正確には、集団を構成する世代あたりの「繁殖年齢にある個体の数」と考える。

ヒトを例にとると、ある個体の生殖細胞のゲノムに変異が起こった場合、その個体の卵子・精子といった生殖細胞(配偶子)の半分に変異が含まれる(減数分裂:写真4)。

子の数が0であれば、親の生殖細胞に生じた変異は受け継がれることなく完全に集団中から消失する。子が1人生まれた場合、変異を受け継ぐ確率は50%、また同じく失われる確率も50%となる。子が2人であれば、親に生じた変異を全く受け継がない確率は25%に下がる。子の数が多いほど変異が集団中から消失する可能性は減少するが、変異はそれが生じた初期の段階で消失しやすい。計算上では、7代目になるまでの間におよそ80%の変異が集団から完全に消失するという。

(図2) 変異が消失する確率

生殖細胞のDNAに生じた変異は、次の世代に受け渡すための配偶子(精子または卵子)の、50%に含まれる。次の世代の子には一人の子に対し50%の確率で変異が伝わり、同じく50%の確率で変異は伝わらない。子が二人であれば変異が消失する可能性は25%に減少する。

何世代かを経て、集団中の半分の個体が変異をもったとする。これを2色の金平糖に例えてみよう。2色の金平糖がそれぞれ50%ずつ入った箱がある。これは何個入っているかわからない、魔法のような無限の金平糖箱だ。そこから、10個を目隠しでランダムに小皿に取り出す。取り出した2色の比率で新たに金平糖箱を作り、そこからまた10個を取り出すことを続けていこう。図では順調に緑色が増加しているが、ランダムであるので、初期には一度優勢だった方の色が、途中で割合を減らすこともあるだろう。これを何度か繰り返すと、最終的にはどちらかの色が100%となり、一方の色は完全に失われる。その後は色が変動することはない一色だけの金平糖箱だ。生きものの場合では、変異が集団中の100%に達することを「固定」と言い、その集団に完全に定着し、以降後世に引き継がれ続ける。そうなるともはや変異ではなく、その集団の全ての個体に共通するゲノムといえる。

今度は取り出す個数を50個にして、同じことを繰り返してみよう。こちらもほとんどの場合いつかはどちらかの色のみになるが、取り出す個数が10個の時と比べると、固定までに平均的には5倍の時間がかかることになる。

(図3) 集団サイズによる固定までのスピードの違い

どのような生物であれ、次世代に伝わるゲノムの数に限度があるために生じるメカニズム(遺伝的浮動という)は、あらゆる種類の変異に対してはたらく確率の力となる。小さな島など集団の個体数が少ない状況下においては、変異が集団中に広がり固定されるスピードは速く、また失われるスピードも同様に速い。一方で、表現型に現れる変異に対しては自然選択による力も働く。どちらが重要かはその相対的な強さにより、確率の力が上回る場合は中立的となる一方、自然選択の力が上回る場合もある。

【関連記事】「歴誌を見つめて」斎藤成也 

「中立進化」という考え方を基本に、ゲノム科学から考古学、言語学などの多様な分野と融合し、ヒトの歴史を解き明かそうとする取り組みをお伝えします。
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Column

地理的隔離

川や山脈の出現、大陸の移動など、ある集団が何らかの理由で地理的に隔てられ別の集団に分かれると、それぞれの集団は異なる環境で異なる時間を過ごすことになる。この時、どのような個体で構成された集団であったのか、集団サイズがどれくらいであったのかも、その後の行く末を左右する要因となる。現在世界で約1000種が知られているオサムシは「飛ばない」というその性質から、地球の大陸移動とともに地理的隔離を重ね、多様な種に分かれ現在に至る。


【関連記事】「オサムシ研究のこれまでとこれから」蘇 智慧
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5.進化とは何だろう

個体のDNAの塩基配列に変異が起こり、情報が書き換わる。そのたった一つの変化した情報は、そのほとんどが偶然や自然選択の力により消え、永久に失われる。そんな中、どういうわけか失われることなく残ったものが、集団の中にさらに広がってゆく。集団中に100%浸透した変異は、その後その集団が全滅しない限り後世に継承され続ける。そしてまた新たな変異が次の変化を作り出す。それをわたしたち、今生きる全ての生きものが約40億年ものあいだ続けてきた。

(図4) 進化 個体に起こる変異が集団中へ広がる

今回、進化についての基本的なしくみを紹介することで、進化の流れの全体像を俯瞰し、さらなる進化の不思議を共に楽しむための準備運動となることを期待した。ここでは語りきれないメカニズムが、進化研究により日々明らかにされており、その複雑な相互作用など解き明かされていない謎はそれ以上に残されているだろう。

現在の地球上の隅から隅まで息づいている多様な生きものを見つめると、どうすればここまで多様になれたものかとその不思議に圧倒されはしないだろうか。人間の感性から見て精緻なもの、粗雑なもの、美しいもの、変てこなもの、複雑なもの、単純なもの。およそ40億年をかけ、進化により実現した景色だ。現在に至るまでに途中どのような出来事が起こり積み重ねてきたのか、一つ一つの生きものの歴史物語に想いを馳せると、さらに違った景色が見えてくるかもしれない。

進化に目的は無い。進化はいつも結果である。環境に適応したもの、幸運なもの、必然と偶然がないまぜとなり、その場その場で必死に生きる生きものたちが場当たり的に、わずかな変化を一つずつ、一つずつ、世代ごとに紡いできた結果がここにある。今この瞬間もわたしたちは全ての生きものと地球を共有し、進化の途中を生きているのだ。

 

COLUM

分子時計

DNAの塩基配列は、変異によって書き換わっている。そして変異が自然選択を受けない中立な場合、その変異による進化の速度は突然変異率に等しく、時間に対しておよそ一定で、時計のようにゲノムに時を刻み続けている (ただし進化速度は種や遺伝子によって異なる)。これを分子時計という。 異なる2つの生きものの塩基配列を比較して、その相違と分子時計から生きものが分岐した年代を推定することができるようになった。種がどこで分岐したかをあらわす系統樹も、形態の違いにより判断されていた時代を経て、現在はDNAやタンパク質の配列を用いて描かれるようになった。見た目の違いの大きさが、必ずしも長い年月をかけたのではないという例や、見た目がほとんど同じであってもゲノムが大きく異なる例も、分子時計から見えてくる。

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