木生昆虫博物館の全景。正面から見ると蝶の形を思わせる 大変珍しいモンキカミキリを前にして、事務所で談笑する余清金氏(中央)と奈良一氏(左)、当館の大津省三顧問(右)

南の海岸べりはハイビスカスが咲き乱れる亜熱帯、針葉樹が生い茂る寒帯の山岳地帯は3000m級の山並みが続く—。台湾はさまざまな生物相を見せる生き物の宝庫である。

有性生殖で増える寒帯のプラナリアが長い時間の間に生殖器を失い、分裂(無性生殖)でしか増えない亜熱帯のプラナリアヘと進化したのではないか。そう考えて生命誌研究館の一行は、進化のドラマを再現するために、6月半ば、台湾をビデオのロケで歩きまわった。

途中、中部の山間地、埔里(プーリ)で「木生昆虫博物館」を開く余清金(ユチンキン)氏を訪れた。余氏は蝶だけでも多いときで年間500万匹も扱ったことのある世界でも有数の昆虫商人。一介の昆虫採集人として身を起こし、『台湾のカミキリムシ』などの著書もある余氏の半生は、生き物と人との関係を考えるうえでとても興味深い。

余氏は、採集人であった父に連れられて蝶の採集を始めた。近くには、蝶の群舞で知られる南山渓がある。400種にのぼる台湾の蝶のうち、370種が埔里周辺で見られるという立地である。見よう見まねで蝶をとるうち、気にいった蝶を父に隠してこっそり集めるようになる。やがて、アメリカや日本へ蝶を輸出するようになり、一代で財を成した。

日本からの観光客もやってくる木生昆虫博物館。ところ狭しと並ぶ、アレクサンドラトリバネアゲハなど世界の名だたる蝶のコレクションもみごとだが、中国のカブリモドキや台湾のカミキリムシのコレクションなど、学術的に貴重なものも少なくない。雌雄同体や、模様などが変わった異常型の蝶を1万匹も所有している昆虫博物館は、おそらく世界でここだけである。展翅は絶対他人まかせにしない。一つ一つを自分の美学で仕上げる。

余氏は、昆虫の飼育も楽しんでいる。オニツヤクワガ夕やタイワンテナガコガネの工夫をこらした飼育に、台湾のムシ好きたちがその方法を聞きにくるという。

余氏のところに、彼の著書の共著者である奈良一氏が来ていた。和歌山の中学校長を定年前にやめ、カミキリムシの研究のために台湾へ毎年くるという虫のムシの一人。奈良氏の案内で私たちロケ班は南山渓を訪れた。地元の採集人が仕掛けた塩水や小便のトラップに群がるミカドアゲハやウスムラサキシロチョウなど、何百、何千という色とりどりの蝶の群。私たちは改めて、生命の驚くべき多様性を思い知らされたのだった。

(本誌:谷本周也/たにもと・しゅうや)

余氏によって採集され分類が進んでいる台湾の甲虫たち。珍品・新種が目白押し
Dascillidae(和名なし)の一種
Holcoderus formosanus(アトキリゴミムシの一種)
Chondria sp. (テントウムシダマシ科)
④タイワンコバネツツシンクイ
Ambrostoma sp. (ハムシ科)
Pseudozaena opaca(ヒゲブトオサムシ科)
⑦種名調査中(テントウムシ科)