高等植物以外では、DNAの配列TGGは、そのままアミノ酸のトリプトファンに翻訳される。コムギ・トウモロコシなどの高等植物では、同じ配列部分がアルギニンを示すCGGに変わっている。この変異はそのままでは有害だが、メッセンジャーRNAの段階で修正され、結局トリプトファンができる

よく知られているように、たんぱく質は遺伝子DNAの配列をもとにアミノ酸がつなぎ合わされて作られる。その際にDNAの情報がアミノ酸の配列へ正確に伝えられることは、分子生物学では常識となっている。だからDNAの塩基配列がわかれば、たんぱく質のアミノ酸配列は自動的に決まると考えられてきた。

ところが最近、植物や原生生物のミトコンドリア等で、DNAからのアミノ酸配列が実際のアミノ酸配列と合わない例が見つかってきた。たとえば、トリプトファンをコードするDNA配列TGGの一部が、コムギのミトコンドリアではアルギニンのCGGに変化しているが、作られるアミノ酸はトリプトファンである。どうも、DNAの段階での誤り(突然変異)を、DNAから写し取られるメッセンジャーRNAの上で修復するメカニズムが存在するようなのだ(図参照)。この特殊な修正機構をRNAエディティングと呼び、植物、原生生物以外にも哺乳類や粘菌など、多様な生物で見つかっている。

RNAエディティングの発見は、多くの分子進化の研究者にとっては驚きだった。DNAの上に起こる変異は、有害なものが多く、ただちに淘汰されてしまう。だから、DNAに誤りをもったまま修正機構をもつ生物が現れるとは想像できなかったのである。いまのところ、RNAのエディティング機構の出現を完全に説明できる説はないが、ここではカナダのグレイらの仮説を紹介する。

グレイらは、進化の歴史において、まずある種の酵素になんらかの突然変異が起こりRNAを変化させてしまうはたらきをもってしまったと考える(左の図右ではC→Uの変化)。ただ、酵素の活性は弱いものであった。一般にメッセンジャーRNAはDNAを鋳型に大量に作られるので、そのごく-部が酵素により変化し、誤った配列になっても、その生物の生存には大きな影響はない。このような、生存にはわずかに不利だが必ずしもすぐに淘汰されずに集団内に存在し続けることが可能な突然変異のことを、弱有害変異と呼ぶ。

次の段階としてDNAのどこかに有害突然変異が起こる(左の図ではT→Cの変化)。その際、起こった変異がすでに存在していたRNAの修正機構によって修正可能なものであれば、いままで生存にわずかに不利であったRNAエディティング機構をもつ個体が逆にもたない個体に比べて有利になる。こうして生存に有利になった機構がさらに洗練され、集団の中に広まっていくと考えるのである。

RNAエディティングは、生命の起源の初期のころに存在したといわれるRNAワールドの名残りだという説もあったが、現在では進化の過程で異なる種において独立に現れてきたと考えられている。たとえば、京都大学の大山莞爾(かんじ)らによると、コムギのような高等植物で見つかる修正機構が、それよりも下等なコケのミトコンドリアではまったく見つからない。この場合は、高等植物になってからRNAエディティングの機構を獲得したのだと思われる。

グレイらの考えは、DNA上の変異とRNAエディティングの活性の登場という2つの別々の事柄が進化の過程でいかに出てきたかについてはうまく説明している。さらに個々の生物種での詳しい分子レベルのメカニズムがわかってくれば、RNAエディティングの起源および進化についてのより新しい知見が得られるだろう。

(おおさわ・しょうぞう、かとう・かずと/生命誌研究館)