季刊誌「生命誌」通 巻28号 
遍満する繰り返し 情報の繰り返しからできるタンパク質の構造:芝 清隆
Experiment
遍満する繰り返し 情報の繰り返しからできるタンパク質の構造
遺伝子やタンパク質の中の繰り返し構造。
そこには遺伝子の出生の秘密が隠されている。
小さなDNAを単純に「繰り返す」ことから遺伝子はどんなタンパク質を作るのか・・・・・・。
 生物界には「繰り返し」がよく見られる。動物の体表の縞模様や体節構造、鳥の歌声など日常気づくものから、サーカディアンリズム、細胞内カルシウム濃度の振動、細胞周期などの研究の結果からわかってきたものまで、「繰り返し」はあらゆるところに見られる。
 DNA、タンパク質の世界も例外ではない。1980年代に故大野乾博士(当時、米国ベックマン研究所)は、これに注目し、「DNAは複製を続けると、情報の繰り返しを発生させる性質があり、情報の繰り返しで遺伝子が誕生した」とする仮説を出した。最近のゲノム研究により、染色体のある領域は重複によって進化してきたこと(大きな繰り返し)や、塩基1、2個や1アミノ酸の繰り返しの長さが遺伝病と関連すること(小さな繰り返し)が明らかになり、注目を集めている。タンパク質の場合、その立体構造の繰り返しを目のあたりにすると、いかにも繰り返し単位をコードする短いDNA(マイクロ遺伝子)が重複して、このタンパク質の遺伝子ができたてきたように見える。
タンパク質の繰り返し
 立体構造の繰り返し(a〜d)とアミノ酸配列の繰り返し(e)
a)フィブロネクチンタンパク質。はっきりとした単位で4回繰り返している。
b)LRVタンパク質。
c)炭酸脱水酵素。繰り返し単位の独立性が低い。
d)DNAトポイソメラーゼの一方の端は、同じような構造が2回(黄色と緑色の領域)繰り返して全体構造が形成されている。
e)好熱菌のイドロイシルtRNA合成酵素には、6種類の5アミノ酸配列の2回の繰り返し、1種類の3アミノ酸配列の8回の繰り返しなど、多くの繰り返しがある。アミノ酸の繰り返しに相当する部分を赤色系統で着色している。立体構造の繰り返しと関連がないことがわかる。繰り返し性(長さや回数)が高いものほど濃く着色してある。
  最近、多くのタンパク質の立体構造がわかってきたので、あらためて、立体構造の繰り返しとアミノ酸配列が複数存在する領域をマップしてみたところ、じつに4割以上の部分がアミノ酸配列が複数存在する領域をマップしてみたところ、じつに4割以上の部分がアミノ酸配列の繰り返しをもつという結果が出た。これでは、このような短い配列の繰り返しをもつという結果が出た。これでは、このような短い配列の繰り返しの間の対応関係を調べてみた。
 立体構造上に明らかな繰り返しがあるタンパク質のアミノ酸配列を見ると、立体構造に対応した繰り返し性がある場合もあるが、ない場合も少なくない。アミノ酸配列には目立った繰り返しがないが、立体構造には明らかな繰り返し構造が認められるタンパク質があったり、逆に、立体構造には目立った繰り返しがないのに、短いアミノ酸配列に注目すると、驚くほどたくさんの繰り返しが検出されることがある。ある酵素で短いアミノ酸配列が複数存在する領域をマップしてみたところ、じつに4割以上の部分がアミノ酸配列の繰り返しをもつという結果が出た。これでは、このような短い配列の繰り返しは、この酵素の原始遺伝子の名残なのか、あるいは進化とともに後から獲得されたのか、にわかには判断がつかない。
 38億年前に起きた生命誕生の時の遺伝子の誕生の問題を考えるには、現存する遺伝子やタンパク質の解析から分析的に攻めていくのは難しいというのが現状だ。しかし、さまざまな時期に登場した多くの生物のゲノム解析データが蓄積すれば、それらの比較から進化の過程が追えるようになるだろうと期待している。
 そこで、現存する遺伝子を調べるのではなく、実験室の中で遺伝子を誕生させ、得られた人工遺伝子の性質から遺伝子の起源を考えるという、実験進化学の手法に挑戦した。生まれてくる遺伝子と現存する遺伝子との共通点と相違点とを吟味して、遺伝子誕生の構造を追究していこうと考えたのである。
 19〜78塩基対という短いDNAを合成し、これらをマイクロ遺伝子重合法(MPR法)と呼ばれる技術を用いて試験管の中でつないだ。重合反応の時に適当に加えられる「ノイズ」のために、あちこちに塩基配列の挿入や欠失が生じるので、得られた重合体は単純な繰り返し構造ではない。一種のマイクロ遺伝子配列を重合させてできる人工遺伝子は千差万別なのだ。
 この集団から任意に選んだ人工遺伝子がつくる繰り返し構造に富んだタンパク質の性質を調べてみた。すると、いくつかは、フィルムの形成能力、ゲルの形成能力などの天然に存在する繰り返し性が強いタンパク質と同じような性質を示した。さらに驚いたことに、いくつかのタンパク質は、可溶状態でαヘリックスやβ シート構造をもつものがあったり、細胞接着活性やエステラーゼ活性などの初歩的な生物機能を示すタンパク質さえ含まれていたのだ。何ら選択圧をかけず、マイクロ遺伝子重合体の集団中から無作為に選んだ遺伝子に初歩的な生物構造が備わっていたわけだ。短い配列を単純に繰り返すだけで、初歩的とはいえ、それなりの生物機能が生まれ出てくることがわかり、その呆っ気なさに驚いている。
 遺伝子の起源への興味からこのような研究を始めたが、これはけっして38億年前に起きた遺伝子誕生のシミュレーションにならない。試験管内進化で遺伝子誕生のシュミレーションもどきはできるが、正解のわからないものに対するシミュレーションは存在しないからだ。たとえ、現存する遺伝子に近いものが試験管内で生まれたとしても、自然は別の解法を用いているのかもしれない。しかし、試験管内進化はDNAやRNAやタンパク質の物性を明らかにするし、この繰り返しを原理とした人工タンパク質創出は、機能性分子の人工創出などの応用分野への展開が期待できる。
人工タンパク質をつくる
 繰り返しの単位に用いたマイクロ遺伝子の配列。その上下は6つの読み枠がコードするアミノ酸配列。
 人工タンパク質の性質。
a)ゲル化したタンパク質。
b)フィルムを形成したもの。
c)マクロ構造形成したもの。
(しば・きよたか/癌研究所)

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