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Special Story

共生・共進化 時間と空間の中で
つながる生きものたち

ショウジョウバエの甘味受容体:谷村禎一

ショウジョウバエは,跗節(ふせつ)や口吻(こうふん),翅にある毛状の味覚器(感覚子)で味を感じている。味の種類に応じて,糖,塩,水を感じる味細胞が感覚子にある。感覚子を糖溶液で刺激すると,感覚子の根元にある味細胞が興奮し味情報が脳に伝えられる。

私たちは,ショウジョウバエで甘味受容体の実体を明らかにしたいと考えた。まず,ハエの糖に対する味覚感度を知るために,食用色素を利用した摂食実験を行なった。2mM と3mM ショ糖寒天の溶液をそれぞれ赤と青に着色し,絶食させておいたハエに食べさせると,ほとんどのハエは3mM ショ糖を食べ,腹部が青くなっていることが実体顕微鏡で容易に観察できる(2mMは1の水に0.68gの砂糖を溶かした濃度,ちなみに砂糖小さじ1杯は約3g)。ハエはわずかな甘味の差を見分けることができるのだ。

(左)ふ節で味を感じているショウジョウバエ
(中央)ショウジョウバエの味覚感度を測定するための選択実験。
(右)腹部の色を見て, どちらを食べたのか判断できる。

この方法を用いて味覚異常の変異体を探した。2mM ショ糖と20mM トレハロース(グルコースが2個つながった2糖類で甘味はショ糖の半分ほど)を選ばせると,トレハロースを選ぶ系統と,ショ糖を選ぶ系統があることがわかった。両系統でショ糖に対する感度には差がなく,トレハロースに対する味覚感度が異なることがわかった。遺伝解析の結果,トレハロースの感受性は性染色体上の一つの遺伝子に支配されていることがわかり,Tre遺伝子と命名した。

ショウジョウバエの口吻部分(左)と, 感覚毛の拡大写真。感覚毛の先端には, 味覚物質が入る穴が見える。(写真=すべて筆者)

昨年,苦労の末にTre遺伝子のクローニングに成功し,この遺伝子がGタンパク質共役型の7回膜貫通タンパク質(GPCR)をコードすることを明らかにした。こう書くと専門家はなるほどと思う。外からの情報を受け取る受容体の多くはGPCRの仲間であり,視覚や嗅覚も同様であることがわかっているからだ。つまり,これはトレハロース受容体の遺伝子に違いないということだ。Tre遺伝子の機能が欠損したハエを分離して調べたところ,トレハロース感度が低下しており,そのハエでTre遺伝子を強制的に発現させるとトレハロース感度が上昇した。

ショウジョウバエのトレハロースの受容体

2001年にヒトやマウスで甘味受容体遺伝子が相次いで報告され,いずれもGPCRをコードしていた。一方,ショウジョウバエの全ゲノムが解読され,味受容体と思われるGPCRがたくさん発見されている。これらのGPCRが実際に味受容体として働いているかの証明が次の課題だ。

谷村禎一(たにむら・ていいち)

1951年岐阜県生まれ。九州大学大学院理学研究院助教授。大きく言えばショウジョウバエの行動発現機構,具体的には味覚とサーカディアンリズムについて,遺伝子,細胞,生理,行動の各レベルからの総合的研究を行なっている。研究とは離れて,ミヒャエル・エンデ,大江健三郎など様々な分野の本を読む会を,月に一度もっている。

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個体発生は進化をくりかえすのか