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Special Story

共生・共進化 時間と空間の中で
つながる生きものたち

相互利用のバランス:レット・ハリソン

イチジクとその送粉者イチジクコバチは,少なくとも生物学者の間ではかなり有名になった。自然界での極めて複雑な関係が見られるこの系は,生態系や共進化の謎を解く鍵を秘めている。

この相互関係は,およそ9000万年前から始まったとされ,約750種のイチジク(イチジク属Ficus )が現在繁栄している。新しいイチジクが進化するたびに,ちゃんとそれに対応するコバチも存在するのだから驚きだ。しかし,そのような複雑な共進化も,他の自然界のできごとと同様に,ダーウィンの進化論で語れる。それぞれの生きものは,次世代における子孫の数が最大になるよう進化するという考え方だ。

動物に花粉を運ばせる植物は,送粉者に蜜などの報酬を与えたり,送粉者の幼虫用に育児室を提供する。栄養豊富なキャベツの葉は,サラダになるために進化したのではなく,花粉を運ぶ蝶の幼虫に食べさせるものだ。そこでそいつは,園芸家の敵となるわけだが。

イチジクのように,昆虫が花粉を運び,その幼虫が種子を食べるという関係は,ソテツの仲間や,アメリカの乾燥地帯の植物ユッカにも見られる。ここでは,種子を実らせるべき送粉者が活躍して幼虫がたくさん生まれると,逆に多くの種子が食べられてしまうという,矛盾する関係がある。

①樹の上で発芽した半着性のイチジク(Ficus sumatrana )。ここから徐々に地面まで根を伸ばしていく。水不足の厳しい環境を生き抜くのはほんのわずか。

②大木に成長した絞め殺しイチジク(F.kerkhovenii )。樹上には筆者がいる。

コバチが卵を産んだイチジクの花は,幼虫の餌となるゴール(虫こぶ)になり,コバチが卵を産み損ねた花は,受粉していれば種子になる。成虫になり,花粉を身につけて飛び出す雌のコバチの数は,運ばれる花粉の数,つまりイチジクの雄の適応度(ある遺伝子型をもつ個体が次世代にどれだけ残るかを示す尺度)になる。種子は,イチジクの雌の適応度だ。また,飛ぶ翅がなく花粉を運べない雄のコバチの育成は,イチジクにとっては無駄なので,あまり増えてほしくない。観念的に,イチジクは,ほぼ同数の雌コバチと種子を育てて,投資のバランスをとりたいところだ。一方,コバチはできるだけたくさんの卵を産んで利益を得たい。このような双方の利害関係が微妙なつり合いを保って,イチジクとコバチは共に存続しているのだ。

③イチジクとコバチの投資バランス

もし,イチジクすべてにたくさんの送粉者が入ったら,食べ尽くされて種子を残せないし,拒みすぎると花粉を運んでもらえない。イチジクとコバチの連携がいかにも重要だ。イチジクの中には雌雄異株となり,雄株で送粉コバチを育て,雌株で種子を実らせるという戦略をとったものもある。コバチは雌株の花のうでは繁殖できないが,雄株と雌株の花のうを見分けられないので,運悪く雌株の花のうに入ってしまうと授粉の役割だけを果たす。

私が毎年調査を行なっているマレーシア・ボルネオ島のランビルの森は,世界中でもっともイチジクの豊富な場所で,約80種類のイチジクが観察できる。調査中,1998年に干ばつにみまわれて花が咲かないことがあった。この際,雌雄同株のイチジクには,花が復活するとすぐコバチが戻ってきたが,雌雄異株のほうは戻るまでに2~3年かかるという面白い実態を目にできた。熱帯雨林の気候の変化が,またいつ新しい状況をもたらして,謎解きのヒントをくれるかわからないと思うと,ランビルの森からは目が離せない。

④イチジク(F.schwarzii )に集まるイチジクコバチ(Ceratosolen vetustus )。

⑤イチジク(雄株)の花のう内部。まだ若い花。
⑥産卵する雌コバチ。
⑦穴を開ける雄コバチや,花粉をとる雌,まだ花の中にいる雌もいる。
⑧花のうから出てくるコバチ。

⑨イチジク(雌株)の花のう。
⑩授粉を終えて死んだ雌コバチ。産卵はできない。
⑪成熟する種子。
⑫イチジクを食べて種子散布に貢献するコウモリ(Dogface fruit-bat; Cynopterus brachyotis )。鳥やサルなど,森の多くの動物たちがイチジクを食べる。(写真=すべて筆者)

Rhett Harrison(レット・ハリソン)

1970年スコットランド生まれ。94年京都大学大学院に留学,現在京都大学生態学研究センター特別研究員。マレーシアを中心に,熱帯雨林の生態調査研究を行なっている。

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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