ところで、この刷りこみについてとても興味深い現象がある。生殖細胞ができる度に、刷りこみのやりなおしが起こるのだ。ちょっと複雑なので図を見ながら追って欲しい(図3)。青色は父親型の刷りこみ(PEGははたらきMEGははたらかない)、赤色は母親型の刷りこみ(MEGははたらきPEGははなたらかない)を表す。赤と青を受け取った受精卵は、体の細胞を作り、あなたの体の中では一生、この刷りこみが有効で、PEGは父親由来、MEGは母親由来の染色体ではたらき続けることは前述した通りだ。ところで、次の世代に伝えられる生殖細胞(男性なら精子、女性なら卵)は、胎児の頃にあなたの体の中で準備されるのだが、このときに、なぜか一度この刷りこみが消え、あなたが男性なら、父親由来の染色体も母親由来の染色体もすべてPEGだけがはたらくように刷りこみなおされる。精子の中に入る染色体は一組だけなので、父親由来のものが入るか、母親由来のものが入るかはわからないけれど、どちらが入ったとしても精子に入った染色体はPEGだけがはたらくのだから、あなたの子どもが母親由来の染色体が入った精子から生まれれば、子どもの中では、あなたでは抑えられていた母親由来のPEG(つまり子どもにとってはおばあさんの中ではたらかなかった遺伝子)が刷りこみなおされてはたらくことになる。反対に父親由来の染色体の入った精子が生かされた場合は、あなたの中ではたらいていたのと同じPEG(つまり子どもにとってはおじいさんの中ではたらいていた遺伝子)が子どもの中ではたらくのはもちろんだ。こうしてすべてのPEGがはたらく可能性をもちながら伝えられていくことになる。あなたが女性なら卵子に入った染色体はMEGだけがはたらくように刷りこみなおされ、以降は精子の場合と同じ理由で、次の世代へと、どちらの染色体にあるMEGもいつかははたらく可能性をもちながら伝わっていく。なぜこんな面倒なことが行われるのかはまだよくわからないが、とにかく「刷りこみなおし」をすることで生きものに特有の偶然性、多様性という性質が保たれることは確かだ。
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図3 生殖細胞ができるたびになされる刷りこみなおし |
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