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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2020.08.01

なんてかっこいいんだろう

テレビの音楽番組でディズニーの『ファンタジア』の音楽がとりあげられたので、戸棚の奥からミッキーマウスが大きく描かれた箱をとり出しました。本当に久しぶりです。中は、『ファンタジア』のCDとビデオテープのセット、テープというところがなつかしさを象徴しています。

「観るのと同時にDVDに入れておこう」ということになりました。社会に少しずつ動きが出てきて手帳にスケジュールが入るようになりましたが、関西への移動がない分時間の余裕はあります。『ファンタジア』をじっくり観賞しました。

ウォルト・ディズニーとレオポルド・ストコフスキーを中心に「目で見る音楽、耳で聴く映像」というまったく新しい概念で作られたこの作品、改めてすばらしい! と思いました。しかも解説を読んだら、ミッキー・マウスを主役にしようということになって最初に創ったのが『魔法使いの弟子』であり、創作開始は1937年とあるではありませんか。えーっです。私が生まれたのが1936年なので、まだふにゃふにゃしていた頃に、もうこんなことを考えている人がいたということですから。

1940年11月13日に初めて上映された時、一般の人の評判はそれまでのディズニー映画ほどではなく、あまり入りはよくなかったとのことです。ディズニーなら『白雪姫』であり、これは少し早過ぎたのでしょう。

ディズニーは「この作品は、アイディアそのものを具体化した唯一の形式であり方法であって、かわりの作品などできない」と言っています。それにしても80年前にこんなことを考え、しかも素晴らしい形で具体化したのですからすごいですね。レコーディングに使われたフィルムは42万フィート(約Ⅰ2万6千メートル)で、実際に使用されたのはその3%にも満たなかったとあります。またこんな値に出会いました。ゲノムの中のタンパク質をコードする部分とか、宇宙の中の我々が知っている物質とか、熱帯林の中での既知の昆虫の種類とか……どれも数%と言われます。

効率ばかり求めず、数%に本当の意味を探る気持ちを大事にしたいと改めて思いました。『ファンタジア』の中のストコフスキー、滅茶苦茶かっこいいですし、音楽と映像の組み合わせのすばらしさを大いに楽しみました。当時の技術でこれだけのものを創り出す人間の力ってすごいですね。やはり大事なのは人間です。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶