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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.03.15

今に向けての「生命誌からのメッセージ」

「みんなが爆弾なんかつくらないできれいな花火ばかりつくっていたらきっと戦争なんて起きなかったんだな」。 新潟県長岡で開かれる花火大会をみごとなちぎり絵で描いた山下清の言葉です。子どもの時の病気の後遺症で軽い知的障害、言語障害があり放浪の画家と言われた人です。見た景色を鮮明に記憶し、それを細部まで鮮明に描くちぎり絵やペン画には独特の魅力があり、とくにこの花火の絵は音まで聞こえてくる素晴らしいものです。

昨夏、コロナ禍で大会が中止になって辛い思いをしている花火師さんたちが語っていました。「魂を込めて打ち上げるんです。花火のない長岡は長岡じゃない。心の奥深くに入り込んだ文化なんです」。火薬は魂を込めた花火として心に深く入る文化となれるのに、なぜ戦争などというバカげたことに使うのですか。山下清に学びなさい。ニュースで流れてくるプーチンの言葉を聞き、テレビの画面に向かって言っていました。

この話は、昨日出来上がったばかりの「老いを愛づるー生命誌からのメッセージ」(中公ラクレ)に書いたものです。この本ではさまざまな言葉に教えを乞うています。

実は先日、雑誌「太陽」で、土井善晴さんと対談したとき、私が魂と言ったら、「僕が魂という言葉を使ったら非科学的と言われます。そんな言葉使っていいんですか」と聞かれました。「季刊生命誌」の対談で、哲学者今道友信先生が、「ソクラテスは、哲学は魂のお世話だと言っている」と教えて下さいました。科学は素晴らしい学問です。それが明確に示したことは正確に理解することが大事です。でも、魂は科学の対象ではありません。何でも科学でわかると勘違いして、そこで非科学的などという言葉を使ったら大事なものを失うと思います。土井さんにはこんなお返事をしました。

テレビの画面からこちらを見て、「死にたくない」と訴えたウクライナの子どもの姿が目に焼き付いています。私には、「生命誌からのメッセージ」を出し続けることしかできないならそれをやろうと思っています。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶