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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.11.01

緑を見る時も一つひとつをていねいに

映画「杜人」を鑑賞し、その主人公である矢野智徳さんとお話し合いをしました。

ご存知の方も多いと思いますが「小さな移植ゴテと草刈り鎌で風と水の道を作れば土が生き返り、真の意味での豊かな緑が生まれる」とおっしゃって、さまざまな場でそれを実践している方です。土砂崩れなどは、水と空気が流れるべきところを流れていないから起きるのだという説明に考えさせられました。

現代社会はコンクリートでできていますからそれが水の道を切っているのは分かります。でも、コンクリートを全否定することはできません。矢野さんは、現代建築だって意識をすれば水や空気と仲良くなれると言います。今の工事は配慮が足りないだけだと。事実、マンションの例を見せていただきました。水と風の道さえつくれば、コンクリートの脇で緑が元気に育つ様子の分かる写真でした。

お話をしたのは日比谷公園の中でした。ここはオフィス街の人たちの憩いの場であり、都心の緑として、東京人が誇りにしているところです。ところが、公園を歩きながら、立派なクスノキを見上げ、こりゃあ青息吐息だと矢野さんは言うのです。その木のそばにあるゴミ箱の下の方に泥が跳ねて固まっています。「土が硬くて雨水を上手に吸い込まないから水が跳ねているんだ」。こんなところに目を向けたことはありませんでした。確かにそこの土は水を吸いそうもない様子です。

私たちは、緑の公園があれば素晴らしいと安心します。本格的に枯れるとさあ大変と手をかけ始めます。名のある木には特別の目を向けることもします。でも、なにげなく生えている一本一本の木を生きものとして丁寧に見てはいないのだと気づきました。

一本一本の木、一人一人の人が生き生きと生きていく場はどういうものかをよく考えてそのような場を作ることをしていかなければならないところにいるのですね。今の私たちは。
土、水、空気などの大切さを再確認しながら。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶