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研究館より

表現スタッフ日記

2022.12.01

里山と私

私の大学時代のキャンパスは、里山がほど近いエリアでした。最寄駅からの通学路を歩くとき、四季を通じて管理された田畑に魅せられ、生まれ育った田舎の風景に重ねていました。そんな学生1年目の夏、地元の農家さんと交流する機会があり、大学敷地内に耕作放棄された土地があることを知りました。農家の仕事を間近で見て、体験させてもらい5ヶ月目。生命科学を専攻する同級生数人で里山サークルを立ち上げました。2001年11月のことです。

学内の里山の再生を目指し、放課後と週末は泥だらけになって作業しました。ノウハウがないので1本の木を切るのに数週間かかったこともあります。日本の農業の歴史や里山の機能についても学びました。その中で、写真家の今森光彦さんのお仕事を知りました。「生きものが、生きている」ということを、これほど鮮やかに見せてもらえるのか、と驚いたことを覚えています。今森さんは、私にとって20年来の憧れの方でした。

その後は、本や雑誌、テレビや映画で今森さんのご活躍を拝見していましたが、幸運に恵まれ、今年の9月BRHにお迎えして、講演会と写真展を開催することができました。講演は、今森さんの実体験に基づく、とても尊いお話でした。中でも『世界昆虫記』(福音館書店 1994年)に掲載されたラフレシアの撮影は想像を絶するもので、人生をかけた撮影エピソードに驚き、今森作品がこれほど人に影響を与えることに、深く共感するのでした。

講演後の永田館長との対談は、里山をテーマとしました。7年前に農家になられた今森さん。農家は自然の本質がわかっている、というお話は胸に迫り、学生時代に共に過ごした農家の方とのやりとりが蘇りました。そして、自然の中に入り込む農業と、自然を客観視する写真という、全く異なる2つの仕事をされる中で、今森さんが持つようになった「扉の鍵」。これは、多様な生きものの1つとしての「ヒト」と、独自の社会を作って生きる「人間」という存在を考える、ヒントにもなりそうです。お話の内容は、季刊誌111号にたっぷり収録しますので、どうぞお楽しみに。

ただ今開催中の写真展「今森光彦の時間ー昆虫4億年の旅からー」は12月4日までです。世界と日本の昆虫写真30点、標本作品2点を展示しています。今回特別に、今森さんに提供していただいた撮影エピソードも見逃せません。ぜひたくさんの方にご覧いただきたいと思います。

20年以上前に立ち上げた里山サークルは、今どうなっただろうとインターネットで検索すると、なんと続いていて活動はさらに広がり、市の広報誌で特集されるなど、活躍されていました。「サークル代表」という肩書きの学生の名前が毎年変わりながら、どの代表も我がごととして、里山への熱い思いを語っていました。これほど嬉しいことはありません。私もがんばらなくては!

BRHは来年30周年を迎えます。続いてきたこと、そしてこれからも続くことの意味と大切さを噛み締めながら、表現に向き合いたいと思います。