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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2023.06.15

30周年の会を持ちました

30年という時間は決して短いものではありません。その間JTの方たちを初めどれだけ多くの方の応援と参加をいただいたことか。それを糧に生命誌研究館というどこにもない場がどこまで創れたか。支えて下さった皆様に報告する場です。生命誌研究館への思いがある人の集う場です。思いのない人の言葉が発せられることはない。それが私の基本でした。生命誌研究館は小さな組織ですから館員の一人一人が館のコンセプトを具現化する人でなければなりません。30周年の会で最も大事にしたのは、館員が参加して普段接することのない応援して下さっている方と話し、生命誌への思いを新たにすることです。10年、20年の時にこの気持ちで得たものが、その後の研究館を支える大事なものになったと実感しています。館員が気持ちよく参加できたことを願っています。

30年を機に初心に帰ります。1991年です。準備室ができましたが、雲をつかむような状況です。初代館長の岡田節人先生、大澤省三顧問と三人で具体的に何をしようかと考えた時間のなんと楽しかったことか。同時に、団まりなさんたちと「生命誌絵巻」を考えていたのですから、私の人生で最も楽しかった時でした。

節人先生は、生命誌が洋服を着た方と言ってもよく、蝶などさまざまな生きものの音楽を見つけて下さり、コンサートによる生命誌のコンセプトづくりのイメージが生まれてくるなど、広がりが出ました。一方大澤先生は、生粋の分子生物学者ですから、最初は、こんな小さな組織でそんなことができるのかと疑問を抱きながら参加して下さっているのが分かりました。そんな先生に、「山椒は小粒でピリリと辛い」と私が言ったとか。覚えていないのですが。ところが、年がたつうちに、大澤先生の生命誌への思いは、岡田先生以上に強いと感じられるものになっていったのです。本質を理解して下さってからの先生が、生命誌を大切にして下さる言動に感激することが何度もありました。こうして作られてきた生命誌研究館です。科学を踏まえながら、単なる科学に止まらない「知」を生み出す場としての特徴を大事にしたいものです。研究館の外にも思いを共有する方が増えていく実感を大切に。

表現セクターではこれがより大事になります。ただ伝えればよいものではありません。生きること、生きていることの中にあるどうしても表現しなければならないことを、どこにもない切り口で表現するのです。それには、ここまで皆で創り上げてきた生命誌の深い理解が必要です。生命誌は生命誌です。勝手に自分の生命誌などということは許されません。多くの人によって作り上げられていく生命誌をより良いものにする表現が大事です。
 


人間は生きものですから、生命誌はあらゆる知、あらゆる人間活動とつながってきます。

生命誌の基本を忘れずに研究館活動が続いていくことを願っています。具体的にどんなことをするのかを考えるために、いつも眺めている図です。皆様も眺めて下さい。ここから何かを探し出して、できそうなことがあったら教えて下さい。生命誌への思いのある方ならどなたにも面白そうなことを思いついていただけると期待しています。

私は今、「生きものとしての土木」を、楽しいお仲間と一緒に考えています。大事なことができそうです。30年の会でこれに触れましたら、早速、東京大学でゲーテの研究をしている石原あえかさんが「ゲーテと土木」という文を送ってくださいました。今石原さんも土木が大事と思っていらっしゃるのだそうです。打てば響く、このようなやりとりが生命誌の醍醐味です。これからが楽しみです。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶