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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2024.04.16

海と土の大切さ──農林水産業に必要な総合知

脱炭素でなく「炭素循環」が地球上で生きる基本であることを確認しました。過去の大絶滅が起きた原因の解明が進み、隕石の衝突というような大事件はあるとしても、絶滅の直接の原因は炭素循環の異常(具体的には二酸化炭素の増減)だという場合がほとんどだと分かってきたとのことです。ある時は噴火によって二酸化炭素が大量に放出されて気温が上昇したり海が酸性化したりしての絶滅、ある時は二酸化炭素の減少による寒冷化も見られます。温暖化と寒冷化の交替が難物とか、さまざまな変化があります。

ここからも、異常気象の問題を考える切り口として大事なのは炭素循環ということは言えるでしょう。循環に目を向けて、廃棄物を大量に作るような暮らし方はしないようにするために、人間の知恵をフル活動させることが今求められているのではないでしょうか。そこで大事なのは、海と土です。もちろんそれは単なる水と砂ではありません。海にも土にもたくさんの生きものがいます。なかでも、微生物など小さな生きものたちが大事なことは言うまでもありません。小さな生きものたちと、それが作ってくれる海と土。そこから得られるのは、私たちの生存を支える食べもの、これも生きものです。

大事なのはお金でも武器でもありません。私たち自身と仲間である生きものたちです。これからの社会を考えるなら、まず食べものを提供する農林水産業を確実なものにしなければなりません。今、最上級の知性を必要とするのはこの分野です。海と土を知るには、AIや空飛ぶ車の開発よりも、宇宙進出よりも総合的な知が必要です(大根をつくるには知性が不要という認識は大間違いです)。今、世界の耕作地の40%がストレス土壌と呼ばれ、健全な状態ではないと言われています(最近この数字は大きすぎると言われるようになったようです。とはいえ劣化が起きていることは確かであり問題意識を持つ必要はあるでしょう)。海はマイクロプラスチックで汚されています。このまま行くと食べ物不足になるのは明らかです。

生きものたちを支え、生きものたちがつくっている海と土。そこでの炭素循環が正常に行われている地球に暮らす賢い人(ホモ・サピエンス)として生きることが、生命誌の描く未来です。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶