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研究館より

表現スタッフ日記

2025.06.03

身近な自然から

先日、5月17日に高槻市立自然博物館あくあぴあ芥川で、「イヌビワ探検!〜見えない世界のヒミツを大発見〜」という催しをしました。あくあぴあ芥川とJT生命誌研究館の共催、東京の国立科学博物館、トータルメディア開発研究所に協力いただき、研究館の蘇さんと科学博物館の永濱藍さんのお話を聞いて、あくあぴあ芥川周辺のイヌビワを探して、中にいるイヌビワコバチを観察する企画です。あいにくの雨で野外での観察は叶いませんでしたが、近くの木で参加者自らもいできたイヌビワを顕微鏡で観察しました。自然や昆虫に関心のある子供たちとそのご家族のご参加でしたが、「何かの実と思っていたけれど、その中で小さなハチが育っていたのは知らなかった」「見えていないところに面白いことが隠れているのがわかった」と自然に対する新しい発見があったと口々におっしゃっていました。実際に触れて、見ていただくことが、自然を知る大切なきっかけと改めて思いました。

表現スタッフの日常はほぼデスクワークですので、仕事を離れ自然に向き合う時間は大切です。高槻から京都西山にかけては自然の宝庫です。ポンポン山、小塩山には、春にはカタクリの花が咲きます。カタクリは中部以北では珍しくないようですが、2022年に京都府のレッドリストで絶滅危惧種に指定されました。スプリングエフェメラル、早春に花を咲かせて次の春まで休眠する植物で、春の妖精とも呼ばれます。落葉広葉樹林の木々がまだ葉を茂らせる前のわずかな季節に、日差しを浴びて栄養を溜め込み、発芽から開花までは8年かかります。この地域での減少は、落葉広葉樹林が衰退し暗い常緑樹の林が増えたことで、炭焼きによる人の手入れが廃れたことも原因です。さらに最近は野生のシカやイノシシが増えて、美味しい球根を持つカタクリはご馳走になります。そこで、保護の活動として、林の手入れをし、防獣ネットを張っています。登山者に花を楽しんでもらえるよう、観察路も整えます。美しい花の記憶、また見たいという気持ちは、自然を大切する心につながるはずです。

今週の日曜日までは、ヒメボタルの調査でした。ホタルといえば初夏の風物詩、ゲンジ、ヘイケですが、ヒメボタルは、少し早い5月に小さな体で瞬きます。桂川河畔は西日本では最大級の生息地とされていますが、開発や夜間の照明の影響で減少傾向にあり、保護が必要です。体長6〜8mmと小さく、雌は後翅が退化して飛べないため、生息地が限られます。水辺ではなく陸地でオカチョウジガイなどの陸棲貝を食べて育つので、貝が育つやや深い森や竹林の環境と成虫が活動する草地がある環境が望ましいと考え、環境整備とその効果の調査を行ないます。発光の時間が深夜で、真っ暗な藪を歩いて数を調べますので注意が必要ですが、最盛期の幻想的な光の乱舞を見ると苦労は吹き飛びます。残念ながら今年は雨が多かったためか大発生の様子は見られず、観察会は中止になりました。自然というものは思い通りにならないものですが、見ていただいてこそ、広がる活動ですので残念でした。今日も外は雨、わずかな残りの時間を草陰で迎えているでしょうか。

一昨年に「きょうと生物多様性センター」が設置され、JT京都支社がデータベース作成を支援していることもあり、研究館も京都の自然保護団体(上記の活動も含まれます)と一緒に活動に参加しています。自然を守る活動は、考え方もさまざまで利害が絡むこともあり、難しさもあるのですが、実際に関わることで得ることは多いです。周りを見回して、できるところから、飛び込んでみるのも良い経験になりますよ。

小塩山Nの谷のカタクリ(2025年4月)