中村桂子のちょっと一言
2025.08.01
レイチェル・カーソンを読む日が続いています
仕事でカーソンを読む日が続いています。『沈黙の春』が中心ですが、著書のすべてを読んでいます。『潮風の下で』、『われらをめぐる海』など、海の生きものたちへの愛情に満ち、科学にも目を向けた、読んでいて心地よい本です。がんで亡くなった後に発刊された、『センス・オブ・ワンダー』は、お読みになった方も多いのではないでしょうか。姪の長男であるロジャーへのメッセージであり、私はこのタイトルを「愛づる」と訳しています。
このようなカーソンが『沈黙の春』を書かざるを得なかったということを、忘れてはなりません。『沈黙の春』は、「ただ自然の秩序をかき乱すのではない。いままでにない新しい力――質の違う暴力で自然が破壊されていく」と指摘します。人間は、自然をかき乱すところのある生きものですが、質の違う暴力はいけません。それは、「人間が原子をいじってつくり出す放射能」と「自然とは縁もゆかりもない人工的な合成物」の二つだとカーソンは言います。そしてこれらが戦争(第二次世界大戦)のおとし子であることに注目します。戦争で敵を殺すために、お金に糸目をつけず、技術開発を進めた結果生まれたものを活用しようとする戦後社会を直視せずにいてよいのですかという問いなのです。「化学合成殺虫剤の使用は厳禁だなどと言うつもりはない」と言う言葉が示すように、告発ではなく、「自然の中で生きること」を忘れずに、知識と知恵をはたらかせましょうという提案なのです。
このような的確な提案の本質を理解せず、「環境問題を技術と経済で考える」ことしかできなかった結果、この毎日の酷暑です。今からでも遅くはありません(と思う他ありませんよね)。各地域で、大事な課題を直視し、暮らしやすい社会に向けて動かなければならないと活動している方たちがいらっしゃるのを心強く思い、生命誌もその中での役割を果たしていきたいと思っています。
一方、政治・経済の流れには危惧を感じます。若い女性が「核武装が一番安上がり」と言ったと新聞にあり、「核武装」と「一番安上がり」とを結びつけ、これを答えとする脳内回路はどのようにしてできたのだろうと驚きました。考え方の違いとして認められる範囲を超えています。「広く勉強して下さい。女性の先輩としてのレイチェル・カーソンを読んで下さい」と言わずにはいられません。歴史を辿ると、権力志向でなく、本質を見るという役割を女性が果たしてきた例が少なからずあります。無理に男女の区別をする必要はありませんが、いのちに根ざした女性の感覚を活かしてこその活躍だとは思います。
このようなカーソンが『沈黙の春』を書かざるを得なかったということを、忘れてはなりません。『沈黙の春』は、「ただ自然の秩序をかき乱すのではない。いままでにない新しい力――質の違う暴力で自然が破壊されていく」と指摘します。人間は、自然をかき乱すところのある生きものですが、質の違う暴力はいけません。それは、「人間が原子をいじってつくり出す放射能」と「自然とは縁もゆかりもない人工的な合成物」の二つだとカーソンは言います。そしてこれらが戦争(第二次世界大戦)のおとし子であることに注目します。戦争で敵を殺すために、お金に糸目をつけず、技術開発を進めた結果生まれたものを活用しようとする戦後社会を直視せずにいてよいのですかという問いなのです。「化学合成殺虫剤の使用は厳禁だなどと言うつもりはない」と言う言葉が示すように、告発ではなく、「自然の中で生きること」を忘れずに、知識と知恵をはたらかせましょうという提案なのです。
このような的確な提案の本質を理解せず、「環境問題を技術と経済で考える」ことしかできなかった結果、この毎日の酷暑です。今からでも遅くはありません(と思う他ありませんよね)。各地域で、大事な課題を直視し、暮らしやすい社会に向けて動かなければならないと活動している方たちがいらっしゃるのを心強く思い、生命誌もその中での役割を果たしていきたいと思っています。
一方、政治・経済の流れには危惧を感じます。若い女性が「核武装が一番安上がり」と言ったと新聞にあり、「核武装」と「一番安上がり」とを結びつけ、これを答えとする脳内回路はどのようにしてできたのだろうと驚きました。考え方の違いとして認められる範囲を超えています。「広く勉強して下さい。女性の先輩としてのレイチェル・カーソンを読んで下さい」と言わずにはいられません。歴史を辿ると、権力志向でなく、本質を見るという役割を女性が果たしてきた例が少なからずあります。無理に男女の区別をする必要はありませんが、いのちに根ざした女性の感覚を活かしてこその活躍だとは思います。
中村桂子 (名誉館長)
名誉館長よりご挨拶