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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2025.12.02

久しぶりの農業高校

また、今書きたい体験をしたものですから、先回の予告は反故ということでお許し下さい。

先日、長野県安曇野市にある南安曇農業高校の収穫祭に行き、楽しい時を過ごしました、もう40年以上前ですが、農業高校にある農業クラブの全国大会に呼んでいただきました。そこで高校生の活動に触れて、その見事さに驚いて以来、勝手に農業高校応援団長を名乗り、折に触れて農業高校を訪れ、楽しんできました。

最近もさまざまな形で応援はしてきたのですが、高校そのものを訪れたのは久しぶりです。まず広い農場での大きな白菜、土からはみ出さんばかりの大根に迎えてもらいました。遠くにぶどう畑(特産のワインが作られています)。温室ではクリスマスに向けてシクラメンの鉢がずらっと並んでいます。今年の夏の暑さで成長の調節が難しかったとのこと、よい花が咲いてくれるよう、これからも世話を続けます……本当に大変な作業でしょうが、にこやかに語ります。先生と生徒が一緒に夏の酷暑の中、冬は北風の吹く中で作業している時は、一体感があり、時にはさまざまな社会問題や悩みなども語り合うとのこと。黒板を前に教え、教えられている教室の中では起きないことでしょう。教育は本来上から教えるものでなく、共に学ぶものであり、そこから新しい考えるテーマを見つけていくもののはずですので、農場ではそれが行われていると言えます。

収穫祭でしたので、豚汁とお赤飯にりんごを皆で食べて楽しかったと聞き、ここで収穫したものばかりの食事はさぞ美味しかっただろうと、それに間に合わなかったのが残念でした。

農業クラブの会に出場し、国土交通省の賞などを受賞した活動報告も素晴らしかったです。題は「農業高校×流域下水道 地域に還元! 下水汚泥肥料の利用・普及に向けた挑戦」です。この地域の下水道汚泥には、重金属など問題になる物質が含まれていないので肥料に活用できることに気づいて、安全で有効な肥料を作りました。これで汚泥処理にかかっていた市の費用はなくなり農家は肥料代が安くなって助かるという誰が見ても素晴らしい結果を出したのですが…。実は、汚泥は産業廃棄物なので、これを畑にまくと「産業廃棄物不法投棄」の罪になるのです。何だかおかしいですね。生徒たちは、ここでひるまず、知事、市長、国土交通省などに話をして肥料になるよう努力しています。凄いでしょ。

訪問の目的は「農業こそ教育の原点」という話をすることでした。小学校農業科ではいつも「農業を学ぶ事は大事だけれど、もっと大事なのは農業で学ぶこと」と言っています。農業高校はまさにそれを実現しています。その高校生が「小学校の時に農業科があったらよかったのに残念だったと思いました」と言ってくれました。農業で学び、生命誌につながっていく流れは大事にしていきたいと思います。

とても気持ちのよい二日間を過ごしましたが、実は文科省は実業高校こそ本来の教育をしているという認識を欠いており、総合化と称して統合し、実質活動の低下につながるような施策をとっています。それでも先生方が頑張っていらっしゃる姿を見ると涙が出ます。 日本のこれからを支えるのは、原子力潜水艦ではなく、このような教育だと思うのです。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶