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研究館より

ラボ日記

2020.06.01

「新たな日常」を考える

ついに日本でも新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が解除され始めました。生命誌研究館でも在宅勤務の一部が解除され、研究室での活動が少しずつ始まりました。とは言え、新型コロナウィルスが世界から消えた訳ではなく、未だにワクチンや有効な治療法がきちんと確立されていない状況もあり、多くの場面で「新たな日常」を作っていく必要性が論じられています。

そんな新型コロナウィルスに関連した暗いニュースが多い一方で、少し明るいニュースにも注目したいと思います。新型コロナウィルスの感染拡大により世界各国で都市封鎖が行われましたが、人間の活動が低下した結果として大気汚染や河川・海洋の水質汚濁の改善が観察された地域があるそうです。さらに環境改善の結果かどうかは分かりませんが、タイ南部の海では絶滅が危惧されているジュゴンが30頭以上の群れで泳いでいる姿が確認される等、野生生物たちにとっては恩恵があった一面があるようです。人間が短期間の活動休止をしただけで、環境汚染が改善され、生物の躍動を感じられました。裏を返せば、日常的な人間の活動がどれだけ環境や野生生物たちに悪影響を与えていたかの鏡であるようにも思えます。

冒頭で触れた「新たな日常」がメディアで扱われる際には、多くの場合「人間の経済活動を再開させるための新たな日常」という意味合いが強いと個人的に感じています。しかしコロナ禍での生物たちの躍動は、「人間を含めた全ての生物が豊かに過ごせる新たな日常」を私たちに求めている気がしてなりません。今までのような都市封鎖を世界的に推進する気は毛頭ありませんが、「新たな日常」を考える時、人間の経済活動だけでなく世界中の環境や生命に関しても考えてみてはどうでしょうか?

佐藤勇輝 (奨励研究員)

所属: 形態形成研究室

プラナリアを用いた成体多能性幹細胞の研究をしています。