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研究館より

ラボ日記

2022.12.01

絶滅回避 iPS細胞の可能性

2006年に高橋和利博士と山中伸弥博士がiPS細胞(induced pluripotent stem cells)を発表し、iPS細胞が再生医療の分野で大きな注目を集めるようになりました。しかし、iPS細胞は再生医療だけでなく、特定の疾患を発症してしまった患者さんからiPS細胞を作ることで、どのように疾患が発症するか、またどのような治療が有効かを検討する疾患モデルを作ることも可能であり、iPS細胞の有用性は高く評価されてきました。

そんな中、私が最近目にしたのが、絶滅危惧種であるキタシロサイのiPS細胞から卵子を作成可能な始原生殖細胞様細胞(PGCLCs: Primordial germ cell-like cells)を分化させることに成功したというニュースです。
キタシロサイは1960年代には2250頭が確認されていましたが、密漁や戦争の影響により、現在では地球上に老齢のメスが2匹存在するのみになってしまっているそうです。このため、事実上は自然交配が不可能であり、絶滅が避けられない状態となっています。このキタシロサイの絶滅回避の手段として、体外受精したキタシロサイの受精卵を近縁のミナミシロサイに移植し、代理出産させることが考えられました。そこで今回、大阪大学の林克彦博士の研究グループでは、老齢のメスから新たに卵子を獲得するために、iPS細胞からPGCLCsを得ることを目標として研究を行いました。まず近縁のミナミシロサイのES細胞(Embryonic stem cells)からPGCLCsを作成するための条件を詳細に決定し、その条件を利用することでキタシロサイのiPS細胞からPGCLCsを得ることに成功したということです。同グループでは既に、マウスの多能性幹細胞からPGCLCsを作製し、そこから培養条件下で機能的な精子と卵子を得ることにも成功しているそうですので、キタシロサイの機能的な卵子を得ることも近い将来可能になると考えられます。キタシロサイの精子は凍結保存されたものがあるそうですので、受精卵を作るための体外受精に必要な物はそろうことになります。

このように、iPS細胞の研究は医療分野に大きな貢献を与えるだけでなく、絶滅危惧種の保護にも繋がる可能性が見出されています。キタシロサイをミナミシロサイに代理出産させる際の種の違いなど、まだ解決しなければいけない課題もあるようですが、改めてiPS細胞の持つ可能性の広さを考えさせられるニュースでした。
 

佐藤勇輝 (奨励研究員)

所属: 形態形成研究室

プラナリアを用いた成体多能性幹細胞の研究をしています。