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研究館より

ラボ日記

2023.02.15

節足動物門の胚の形状変化の多様性に迫る進化研究に挑戦

まだ寒いですが、2月も中旬でそろそろ春の気配を感じそうです。私の前回のラボ日記でこれまでの研究成果を論文で発表したことを書きました。ただ、この研究成果は、構想している進化に迫る研究の中ではまだ初めの1歩で、進化研究としてはこれから始まります。今回は、どのように進化に迫る研究へと取り組んでいくのかについて書きたいと思います。

オオヒメグモを含む節足動物では、初期の胚発生に多様な形状変化が見られます。例えば、オオヒメグモとハエトリグモでは、体軸形成までの胚の形状変化において円盤状の胚盤を形成するかしないかの違いが見られます(下図)。この違いは、進化の過程において現れてきたと考えられます。私は、前回の研究で細胞の動きと胚の形状変化を結びつけられる数理モデルを構築しました。そして、現在は胚の形状変化の結果と進化の過程を結びつけ、胚の形状変化の多様性が生まれる発生の仕組みを探る進化研究に取り組んでいます。そのために、構築した数理モデルを進化の過程に迫ることができるように進化シミュレーションへと拡張します。進化シミュレーションについて簡単に説明しますと、胚の形状変化の数理モデルにより得られた結果を親として、次の世代へとその親の性質(パラメータ)を引き継ぎつつ多少変異を加えて、また胚の形状変化の数値計算を行いこれを繰り返すことで世代交代を実装して、コンピュータ上で進化を実現させます。
 

体軸形成までの胚の形状変化の模式図(白色が胚の細胞集団)

数理モデルを用いる利点は、進化の時間がかかるという制約を緩和することができ、進化を研究することが可能となることです。ただ一方で、数理モデルによる進化シミュレーションは、実際の生物とどう対応させるか難しいところがあります。私の研究で用いる胚の形状変化の数理モデルは細胞ベースになっており、実際のクモ胚の細胞集団の遺伝子情報や形の情報を数理モデルに導入できます。これにより、クモ胚をモデルに胚の形状変化の多様性が生まれる仕組みを具体的に予測できることが、現在私が構築に取り組んでいる進化シミュレーションの特徴です。

研究は区切りがついても、また次の研究が始まります。私のクモ研究はまだ第一歩なので、これからも研究を続けていきます。いずれ皆さまに新しい研究成果を報告できれば幸いです。
 

藤原基洋 (奨励研究員)

所属: 細胞・発生・進化研究室

生物の形作りにおける物理背景、特に力学に興味があります。力学を基にした数理モデルを構築し、コンピュータ上でクモ胚の形態形成を再現することで、生物の形作りのルールを見つける研究を行っています。