ラボ日記
2025.12.02
解析用マシン、ノートPCの「熱い」落とし穴
研究の現場では、膨大なデータを解析作業が日常茶飯事です。研究者にとってコンピュータは、ピペットと同じくらい重要な「実験器具」の一つ。
今回は、私が解析用マシンの選定でハマってしまった、ある「落とし穴」についてお話しします。
「これ一台で最強」の幻想
最近のノートパソコンは非常に高性能です。加えて WSL2 (Windows Subsystem for Linux 2) の登場により、Windows上でLinux環境が驚くほど手軽に構築できるようになりました。
「拡張性の高いノートPCを買ってメモリさえ増設すれば、解析も事務仕事もこれ一台で完結するのでは?」
そう考えた私は、意気揚々とハイスペックなノートPCを用意しました。カタログ上のCPUスペックは最大4GHz超え。これなら大規模なデータ解析も爆速で終わるはず……そう信じていました。
4GHzから2GHzへ……熱の壁
しかし、実際に重たい解析ジョブを流し始めると、現実は甘くありませんでした。 解析開始直後は確かに4GHz付近で高速に計算が進みます。しかし、数分もしないうちに冷却ファンの音が轟音に変わり、ドライヤーのような廃熱とともに処理速度がガクンと落ちてしまいました。
モニタリングしてみると、動作クロックは2GHz以下にまで低下していました。
原因は「発熱」です。 薄いノートPCの筐体では、フルパワーで稼働し続けるCPUの熱を逃がしきれません。その結果、CPUが自らを守るために性能を落とす「サーマルスロットリング」が発生していたのです。カタログスペックの「最大性能」はあくまで一瞬の瞬発力であり、マラソンのような長時間の解析には維持できない速度なのでした。
結論:デスクトップLinuxネイティブの快適さ
「データ解析には、やっぱり物理的なエアフロー(空気の流れ)が確保されたデスクトップが必要だ」
そう痛感した私は結局、OS無しのBTO(受注生産)デスクトップパソコンを購入しました。 そして、Windowsは入れず、最初からLinuxをネイティブでインストールして使用しています。
「Linuxだと事務仕事に困りませんか?」と聞かれることもありますが、実は全く困りません。 BRHでは Google Workspace を導入しているため、書類作成や表計算、スライド作成といったデスクワークのほとんどがブラウザ上で完結できます。Chrome等のブラウザさえ動けば、OSの壁はもはや存在しないと言っても過言ではありません。
おかげで今は、デスクトップの強力な冷却性能で解析をガンガン回しつつ、その横で(再起動やOS切り替えをすることなく)解析結果をまとめる書類を作成する、という非常に快適な環境が手に入りました。
カタログの数字には表れない「熱」の問題と、クラウド時代ならではのOSの選び方。これから解析環境を整える方の参考になれば幸いです。
尾崎 克久 (室長)
所属: 昆虫食性進化研究室
アゲハチョウを研究材料として、様々な生き物がどのように関わり合いながら「生きている」のか、分子の言葉で理解しようとしています。