ラボ日記
2026.03.17
クロアゲハと都市の影
クロアゲハは当研究室にとって重要な研究材料のひとつです。ところが、研究館のある高槻市周辺では、ここ数年でクロアゲハを見かける機会がめっきり減ってしまいました。
車を走らせて、ちょっと山の方へ行って採集していたのですが、頼みの綱だった採集場所も、昨年はクマの出没によって近づけなくなってしまいました。これはなかなかの痛手です。
クロアゲハを提供してくださる方がいらしたら、ありがたいのですが。
クロアゲハは日陰のある森林など、背が高い木が多い場所を好むチョウです。幼虫が食べるカラスザンショウといった植物も、谷筋や林縁に多く生えています。
高槻市はここ数十年で宅地開発が進み、そういった環境が少なくなりました。直接の証拠があるわけではありませんが、生息場所の喪失が一因ではないかと疑っています。
高層ビルが密集する街では、建物の影が広く地面に落ち、街路樹の緑と組み合わさることで、人工的な「森林っぽい環境」が偶然に作り出されているのかもしれません。
もちろんこれは個人的な印象に基づく仮説ですが、「なぜ東京にいるのか」を考えることは、「なぜ高槻にいなくなったのか」を考えることと表裏一体で、科学の出発点になり得ます。
人の手が入ることで維持されてきた雑木林や草原への関心が、少しずつ高まっているように感じます。
人が関わることで成り立つ環境を必要とする生き物は、確かに存在します。定期的に刈り込まれた草地、適度に手が入った雑木林——そういった「半自然的な環境」が、多くの生き物を支えています。
身近なところに、印象的な例があります。
伊丹空港(大阪国際空港)では、安全管理のために滑走路周辺の草が短く刈り込まれています。その草地に、絶滅危惧種のシルビアシジミが多数生息していることが報告されています。
草丈の低い開放的な草地を好むこのチョウにとって、航空機の安全のために維持されている空港の草地が、図らずも好適な住処になっているのです。自然保護を目的として作られたわけではない場所が、希少な生き物を支えているというのは、考えさせられる話だと思います。
クロアゲハがいつ、どこにいて、どこにいないのか。そういった情報の積み重ねが、いつか「なぜ減っているのか」という問いへの答えにつながるかもしれません。
里山の生き物に興味を持ってくださった方が、そのまま科学の仲間になってくださると嬉しいです。
車を走らせて、ちょっと山の方へ行って採集していたのですが、頼みの綱だった採集場所も、昨年はクマの出没によって近づけなくなってしまいました。これはなかなかの痛手です。
クロアゲハを提供してくださる方がいらしたら、ありがたいのですが。
日陰を好むチョウ
そもそも、なぜ高槻市でクロアゲハが減っているのでしょうか。クロアゲハは日陰のある森林など、背が高い木が多い場所を好むチョウです。幼虫が食べるカラスザンショウといった植物も、谷筋や林縁に多く生えています。
高槻市はここ数十年で宅地開発が進み、そういった環境が少なくなりました。直接の証拠があるわけではありませんが、生息場所の喪失が一因ではないかと疑っています。
一方、東京では
出張で東京を訪れるたびに、都心部でもクロアゲハをよく見かける事に驚きます。高層ビルが密集する街では、建物の影が広く地面に落ち、街路樹の緑と組み合わさることで、人工的な「森林っぽい環境」が偶然に作り出されているのかもしれません。
もちろんこれは個人的な印象に基づく仮説ですが、「なぜ東京にいるのか」を考えることは、「なぜ高槻にいなくなったのか」を考えることと表裏一体で、科学の出発点になり得ます。
大切にすべき環境は、原生林だけではない
最近、テレビでも【里山】を題材にした番組を見かけるようになりました。人の手が入ることで維持されてきた雑木林や草原への関心が、少しずつ高まっているように感じます。
人が関わることで成り立つ環境を必要とする生き物は、確かに存在します。定期的に刈り込まれた草地、適度に手が入った雑木林——そういった「半自然的な環境」が、多くの生き物を支えています。
身近なところに、印象的な例があります。
伊丹空港(大阪国際空港)では、安全管理のために滑走路周辺の草が短く刈り込まれています。その草地に、絶滅危惧種のシルビアシジミが多数生息していることが報告されています。
草丈の低い開放的な草地を好むこのチョウにとって、航空機の安全のために維持されている空港の草地が、図らずも好適な住処になっているのです。自然保護を目的として作られたわけではない場所が、希少な生き物を支えているというのは、考えさせられる話だと思います。
「イモムシサガシステム」を一緒に育てませんか
チョウを見かけたら、ぜひ写真を撮ってみてください。当研究室では、身近な昆虫を写真で調べられる「イモムシサガシステム」を公開しています。このシステムは、皆さんから提供していただいた写真によって少しずつ充実していきます。クロアゲハがいつ、どこにいて、どこにいないのか。そういった情報の積み重ねが、いつか「なぜ減っているのか」という問いへの答えにつながるかもしれません。
里山の生き物に興味を持ってくださった方が、そのまま科学の仲間になってくださると嬉しいです。
尾崎 克久 (室長)
所属: 昆虫食性進化研究室
アゲハチョウを研究材料として、様々な生き物がどのように関わり合いながら「生きている」のか、分子の言葉で理解しようとしています。