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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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知らないうちに育てられて

2016年11月1日

牛尾治朗さんがホスト役の対談にお招きいただき、久しぶりにゆっくりお話をする機会を持ちました。1985年、筑波で開催された科学技術博覧会の基本構想委員会が、1980年に設置されました。すべてを統率なさったのは土光経団連会長で、委員長が牛尾さん、副委員長が下河辺淳さんでした。なぜかその委員の一人に40代半ばだった私が入れていただいたのです。テーマは「科学技術と人間・居住・環境」。その中で「科学技術と人間」を考える役を与えられたのが生命誌研究館につながったのですから、この「なぜか」は私にとって大事な「なぜか」です。

ところで、その会合でソニーの井深大さんが赤ちゃん教育の大切さを話されたところ、私が遺伝子の話をしてそれを考えなければダメだと偉そうなことを言ったというのです(国会答弁のようで情ないことですが、まったく記憶にありません)。「井深さんは、こんなにはっきり意見を言われたのは初めてと言って喜こぶし、土光さんもあの会は面白かったと楽しんでたし」と牛尾さんに言われて、ただただびっくり。身の縮む思いでした。当時は遺伝子に思い入れがあったのだと改めて思います。その後井深さんが赤ちゃん教育の財団を作られた時はお手伝いをしましたし、少しづつ勉強したわけです。五年後には生命誌研究館を考えたのですから。大勢の方に育てていただいた証拠をまた一つつきつけられました。

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